第51話 その一歩の一歩④(五年後②)
最終回です。
営業が終わると、晴海はサックとストッカーの掃除を綺麗に始めてくれる。
サックだけのときもそれなりにはやく終わっていたが、晴海という男手が加わったことでさらにはやく終わることが出来るようになった。
そんな彼へのご褒美もとい、『まかない』には残ったフレーバーの中で好きなものを選んで持ち帰れるようにしている。
まだ小さい妹には、シルキーのジェラートが最高のおやつだとよく言ってくれるので、選ぶのはいつも慎重派なくらいに気にしていた。
全部持って帰ると、業務用冷凍庫が自宅にあるわけではないので、家族で食べれるようにカップに入れていくだけ。店で使うのではなく、彼の両親が持たせてくれるアイス用の金属カップに移し変えるのだ。それくらい、家族総出でシルキーのファンなのも嬉しい。
「店長~ストッカーの掃除終わりました」
「ありがと。次は、サックと撹拌機の磨きだけお願いしていいかな?」
「はい」
『は~い』
サックとふたりなら、ひとりでやるよりもさっさと終わらせることが出来る。その間に、芽衣といっしょに帳簿と精算作業を同時にできるから、働き手としては本当に有難かった。
「拓馬さん。こっちの数字、合わないんですけど……」
「どれ? ……ああ。ここの数字入れ忘れてない?」
「あ、ほんとだ」
業務が終わってから、ときどきだが芽衣が名前呼びをしてくれるので嬉しいと感じてしまう。芽衣が卒業してから、拓馬とサックの家に同棲を始めたので帰ればいつだって呼んでくれるが……業務時間中だと、少しこそばゆい。
だけど、近くに晴海がいるのでいちゃいちゃしたら、若い彼には目の毒だ。サックもいるが、彼は『AI』なので扱いは別。
とりあえず、さっさと終わらせて自分たちも残ったフレーバーを選ぼうと急げば……時間があっという間に夜手前になり、サックが晴海を送るといつもの決まりで先に帰っていった。
高校生でも、商店街付近で犯罪が起きないわけがない。男だからって、まだ成人前の子どもだ。きちんと親御さんのところに送り届ける義務があるからと、彼の両親と話し合って決めたことなのだ。晴海自身はサックと帰れるならと、嫌がるどころか喜んでいたりする。
「お疲れ様です」
『いってきまーす』
「「お疲れ様」」
厨房の電気は消し、店舗の施錠もしっかりしてからそれぞれ分かれて帰宅していく。拓馬は芽衣の分のジェラートも持っているので、今日は手を繋げない。少し物足りないが、横に歩いてくれているだけでもほっこりするのだ。
「あと少しで、営業十年目ですね?」
「それに、俺らの結婚式も頑張んなきゃ」
「ふふ。お店使って、パーティーぽくするだけでもいいですよ?」
「それは安くつくけど……無理してない?」
「いいえ。ガーデンウェディングとかに憧れてもいたので」
「なるほど。写真も店をスタジオっぽくすれば、屋外料金もマシになるだろうし」
「でも、もう少しゆっくり考えていきましょう? 拓馬さんと、ずっといっしょですから」
「そうだね。『シルキー』もずっと続けていかなくちゃだし」
商店街の名物を使って、美味しい美味しいジェラート屋を経営している夫婦の噂。
そして、彼らの子どもではないが、二代目となる若い男性スタッフが先代から使い続けているAIと良き相棒になる生活が見られるのは……そこから、さらに次の節目になる頃。
暑くても、寒くても。食べたら病みつきになる『温泉水ジェラート』は、客の皆から愛され続けるのであった。
【終】
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