第44話 ココロを込めたジェラートを
拓馬は、自分を意気地なしだと深く自覚した。
芽衣のことが可愛くて仕方ないのはともかくとして。
常に、自分が傷つきたくないからとただ傍に置こうとしていた。
くるくると動く様子がたまらなく愛おしくて、それだけでいいと認識していたのだ。
だけど、欲しいものは欲しいと、拓馬自身が保守的な態度を取ることで誕生日ケーキを作ってもらるような技術は与えて。
結果、それ以上の動きを拓馬もしなかった。
芽衣もバイトの仕事以上のことについて、拓馬に関わろうともしてこなかった。
ついこの間、芽衣に怪我をさせてしまうまでは……お互い、必要以上に距離を縮めようとしなかった。
なら、怪我からの復帰について、拓馬が出来ることと言えば。
(俺なりの、心を示したものを……渡してあげたい)
消えものでいい。形に残ると、あとで後悔するから。
だけど、心は込めたい。全身全霊をもって、作りたいのだ。
芽衣と出会うきっかけになった、最初のジェラートを。
定番からはいつの間にか消えてしまったジェラートを。
あれをマシンで作るのではなく、手仕込みで作るところから始めた。
サックには、いつも通りの仕込みを頼んでいる間に……そのジェラートを作った。
味見もしたし、大丈夫だろう。
芽衣の出勤時間よりもだいぶ前に作れたが、通常業務もあるのでそれは当然だ。
「お疲れ様ですー」
芽衣が出勤してきた。
だけど、今じゃない。閉店後に、もう一度きちんと謝罪してから渡そうと決めている。
まずは、怪我のことについて聞けば、処置をきちんと受けたので腫れなどは今ではすっかり見る影もない。
再診を今日も受けてきたため、医師からもお墨付きをもらったそう。業務をこなすのも問題ないようだ。
「よかったよ。ちゃんと治って」
『ねー?』
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
そこからは普通にいつも通りの仕事をこなし、常連の一部からも『よかったね』と言ってもらえたりしていた。彼らにも少し以上の心配をかけていたのは仕方がない。だけど、深刻な状況にまで至らずに済んで本当によかった。
(ここからだ……)
閉店後に、芽衣には掃除を頼んで自分は衛生管理の業務をすることに。管理責任者としてきちんとチェックしないと、保健所からとやかく言われるだけでなく食中毒の問題まで出ることだってある。
経営して四年目になるが、今のところクレームも含めて大した報告はされていない。
そのことに安心しながらも、チェックの記入をしていき……サックの片付けも終わったあとに、芽衣を呼んで渡すことにした。
心を込めて作った、詫びだけじゃない特別なジェラートを。
「……え? まかないですか?」
と、思われるのは仕方がないので、違うと拓馬は首を振った。
「今回のお詫びも兼ねてだけど……俺が伝えたいこともあって、作ったんだ」
「伝えたいこと……?」
「うん、ちゃんと聞いてほしい。武藤芽衣さん、君が……あなたのことが好きです。怪我させたとき、本当に生きた心地がしなかった。無力な俺かもしれないけど、傍にいたい。守らせてほしいんだ」
謝罪込みの告白になってしまったけれど、この答えで今後の人生が変わってしまう覚悟はとっくに決まっていた。
断られても、退職したいと言われても構わないと。
ジェラートの入った籠を持ったままの芽衣は、大きな目を丸くしていたがすぐに目を潤ませて……そのまま、腰を折った。
『よろしくお願いいたします』と、答えを添えて。
思わず、喜びが込み上げて抱き着いてしまったが……サックがいたので、一応キスは我慢した。
次回は金曜日〜




