第32話 張り切って仕込みます
芽衣が買い出しに行っている間、店を営業しながらも拓馬の頭の中では彼女にどんな賄いを作ってやろうか考えを巡らせていた。
先日の、拓馬の誕生日にプレゼントしてくれたレアチーズケーキのタルト。
食べるのがもったいないくらいに嬉しかったが、日持ちのしにくい生菓子なので出来るだけ早いうちに食べることにした。切り分けてひと口頬張った途端、想像していた以上の美味しさにばくついてしまって……15cmしかないホールケーキがあっという間に拓馬の腹へ収まった。
それくらいに、美味しいケーキをまた食べたい。
というか、自分以外に作って欲しくなかった。
そんな勝手な欲望を前面に押し出したい気持ちになるくらいだったが、告白する勇気に繋がるとはまた別だ。せめて、少しずつ距離が縮むようなきっかけをつくるくらいが無難。そのため、喫茶店勤務時代では普通だった『賄い』を作ってあげたくなって……けど、店のこともあったので買い出しだけは芽衣に頼んだ。
サックに頼んでもよかったかもしれないが、彼から芽衣にも買い出しの練習をさせた方がいいと言われ……たしかに、と頷ける部分もあったので頼むことにしたのだ。唯一のアルバイトなのもあるが、業務内容を少しずつ覚えさせて損はない。
八百屋と商店の位置は知らなかったということもあって、店の名前と買い出し内容のメモを渡してから行かせた。地図はスマホがあるので、それに頼ると言い出してくれたから伝えていない。
最近の子はスマホを難なく活用してしまうので、時代の流れだなと感じる。とは言っても、拓馬も業務にAIを使用しているのだから、必要以上に機械に頼っているのは同じだ。
芽衣が帰ってきて少し経った頃に客足が少し落ち着いたので、昼休み用の看板を表にかけてから賄いを作ることにした。サックには新作のジェラートを試作するのを頼んでおく。
『なに作るの?』
「無難に、オムライスかな? ドレスのじゃなくて、たんぽぽの」
『ふわとろオムライスだね? 芽衣ちゃん喜ぶと思うよ』
「だといいけど」
洋食っぽく、バターたっぷりで濃いめの味付けでつくったケチャップライスにふんわりキープさせたオムレツを乗せた『オムライス』。映画のタイトルかなにかで『たんぽぽ』などと俗称のついたそれをウキウキしながら待ってくれている芽衣の前に出すと、可愛らしく目を丸めてくれた。
「え? これ……どう食べていいんですか??」
「ナイフに真ん中で切り込みを入れると、ふわって左右に落ちていく仕組み。やってみて?」
「は、はい」
一緒に買ってきてもらったカトラリーのナイフを手に、薄く見える綴じ目に切り込みを入れてもらえば。内側のとろふわしたオムレツが左右に割れてチキンライスを包み込んでいく。本当ならポットにトマトソースとか入れてあげたかったが、ないのでケチャップのボトルを傍に置いてやった。
「こんな感じになるんだ。おしゃれな洋食屋さんをイメージしてみました」
「……店長、なんでも出来るんですね?」
「まあ、元は喫茶店で仕事してたし」
「あ、宮根さんにさっき聞きました」
「そっか。ここを開きたくてそこから独立したんだよ。……冷めないうちに、食べてごらん?」
「あ、はい」
ケチャップを適量かけたあとに、スプーンでふわっと切り込みを入れるところまで可愛いとか。べた惚れ状態な拓馬は、出来るだけ口元を緩め過ぎないように気を付けて見守る。ひと口で頬張るあたりは、まだ子どもの部分は大きく残っていて仕様がない年齢だ。
だけど、顔の表情で『美味しい』を伝えてくれるときのそれは、もうこの子に『好き』とか言いたくて堪らない欲望が心からはみ出しそうなのをこらえた。
「焦らなくていいから、ゆっくり食べてて?」
「……はい。本当に、美味しいです」
至高の一言をもらえた拓馬は、さっき自分で仕込んだジェラートをストッカーに入れていく作業の続きをすることにした。
アイスのように、どばっといれて均すのではなく。網目のように美しく仕上げて『見た目も楽しく』をイメージしやすいようにしていくのがジェラート屋での醍醐味なのだが……。
後ろにいたサックに『何してるの?』と言われるくらいに、デコレーションばりに張り切ってしまった作品のひとつとなっていたため……やり過ぎたと少し反省。
『……俺って、そんな態度に出やすい?』
《ファイト~。あんなにも美味しく食べてもらえているんだから、よかったじゃない? 毎回だと予算大変だから、バイト代の一部から差し引くとか》
『ああ、たしかに。好意だけで作るのはよくないからな……』
『更紗』にいたときはあらかじめ、バイトにも賄いを振舞うシステムだったので格安に近い時給の『シルキー』ではタダ同然で作るわけにはいかない。
芽衣があんなにも幸せそうに食べてくれるのなら、好意的に作ってもいいかと思いかけるが自分はあくまで上司。今回は誕生日プレゼントのお返しに作ったが、普段はどうするくらいはちゃんと決めなくては仕事に支障が出る出費になってしまう。
結果、一回一回作るのが大変だろうからという芽衣の意見があり。せめて、夏場や冬の水分補給などは拓馬とサックが用意するくらいの賄いはしようと決まったのだった。乾燥や熱波はアイス屋家業の関係上、思ったより消費が激しいのは女性に負担をかけたくないからである。
決めたのは、AIとしてこれまでの拓馬の水分摂取を見てきたサックの助言を基にしてだが。
次回は金曜日〜




