第31話 常連その①の気づき
宮根彩香はいつもの休日の食べ歩き……途中で、少し気づいたことが出来た。
たまたまだが、食べ歩きのきっかけになった『ジェラート屋・シルキー』のアルバイトの女の子が買い出しに出ていたので声をかけようとした。
なんだか、とても上機嫌だったので単純な買い出しではないと思ったからで。
「芽衣ちゃん」
「あ、宮根さん」
買い出しの袋は少し重そうだったが、まだまだ若い芽衣には重さを感じないかのようにしっかりと抱えていたので手を貸さなかったが。
「こんにちは。買い出し?」
「はい。店長が賄いを作ってくれるってことで」
「え? 賄い作ってもらうの?」
「そうなんです」
元『更紗』の雇われ店長だった我孫子の作る料理はどれも美味しかった。新店長の方も美味しくないわけではないが、まだまだ我孫子には追い付かない感じがしてあの店にはオーナーの淹れるコーヒーくらいしか、ほとんど利用していない。比べて良くないとも思っているのだが、やはり人が変わると味も変わってしまうのは仕方がないので。
「いいな~。店長さんの手料理、めっちゃ美味しいもんね?」
「食べたことが?」
「前のお店が喫茶店だったんだよ。そこのお客は皆知っているかな?」
「あ、なるほど」
まだ大学生になったばかりの芽衣の恋心。常連とは言え、彩香は自分なりに気づいていたし応援してあげたかった。歳の差はあれど、美男と美少女の並ぶ姿は見ていて目の保養にもなるから……最近は違った意味で通い詰めている理由もあるくらいだ。
「何買ってくるように言われたの?」
「えーっと。ケチャップと鶏肉に玉ねぎですね?」
「王道にオムライス?」
「……すっごく、好きです」
「それ、店長に言った?」
「え? あ? え??」
「オムライス好きって」
「あ、はい。多分??」
わかりやすいくらいに恋心をオープンにしているのに、多分我孫子には伝わっていないのだろう。それはともかくとして、シルキーに行く予定ではあったので少し早歩きで南側に向かうことにした。
店員と話しながらのウォーキングもなかなかないので、会話が自然と弾んでしまう。
「わかりやすいよ、芽衣ちゃん?」
「うぅ……すみません。お客さんにバレちゃうくらいなら」
「いやいや。店長さんが仮にわかってても、そこは考慮してくれているんじゃない? 手作りのケーキ作ったなんて、羨ましいな~」
「……美味しいとは言ってもらえました」
「そりゃ、愛情込めた分美味しいって」
美少女に美味しいものを作ってもらった分、下手な感想は言わない。元喫茶店の店長であれ、評価するところはしているのだろう。それに、夏休みくらいからは芽衣の仕事内容にクランチ製作が増えたということで……ジェラートの人気もさらに上がったは常連でもどれだけ気づいているか。
彩香はここ三年、定期的に通い詰めているので味の違いもそれなりにわかっている。クランチの味わいの違いも、そこそこ理解している上で毎回買っているほどだ。今日は何にしようか悩んでいる間にも、シルキーに近づいてきたので芽衣と別れて列に並んだ。
最後尾にいるサックには、こっそり耳打ちして彼らの状況を確認することも忘れずに。
『店長、賄いづくりに張り切っているよ~~……』
「やっぱ、どっちもLOVEって感じなの?」
『なんですよ~? なのに、この前告白にもならず』
「なんと、もったいない」
周囲が応援していても、そればかりは当人たちの問題。仕方がないとはいえ、下手に突っ込んで険悪モードにさせても意味がないからと、この話はここまでにしておく。
今日はフランボワーズのチーズケーキに、最近クランチが変わったクッキークッキー。あとは、いつものダブルショコラにしてカップを選んだ。
我孫子はいつもの笑顔で応対してくれたが、芽衣と目が合うとさっきの会話を思い出したのかではにかんだ笑顔をもらえた。
(くぅ~~。甘酸っぱい!!)
恋の駆け引きを目の前で見ている気分になると、グルメに半ば恋しているかのような生活をしている彩香にはお腹いっぱいになるくらいのダメージを与えられた気分になる。
しかししかし、下手に口出しできないし。公衆の面前でそんな大それた発言を出来るくらいの度胸もないので、今日も美味しくジェラートをひと口ずつ味わうことにするのだった。ひと口スプーンのフレーバーは、今日はモカミルクだったのでいつもより苦く感じた。
次回は水曜日〜




