第30話 ハラハラドキドキのAI
サックは、芽衣が拓馬に『プレゼント』を渡すところを……『記念』と称して内部カメラで何枚も画像として保存していた。
相思相愛のきっかけ。
とでも言わんばかりのワンシーンでしかないだろう。AIとしての育成プログラムの中でも、ここで主人のためにフォローをしなければいけないのは、義務以上のものだと『感情』プログラムにも反映させながら……堂々と事の成り行きを見守っていた。
拓馬は芽衣から差し出されたケーキの箱を恭しい感じで受け取ったまま硬直しているが。芽衣はどうしたのだろう、と不思議そうに見上げているだけ。
このまま、大した会話もなく『ありがとう』で終わるのは非常によろしくない。
瞬間的な演算処理でも、サックはすぐに弾き出していた。もう少しくらい、感動並みの表現をしてもいいはずが……拓馬の性格を分析してみても、『緊張』と『感動』がないまぜになってうまく言葉が出ないのだろう。
(ここまでくると……所謂、『助け舟』というものをしてみるしかないかな?)
ガッチガチに固まったままでいるし、芽衣の手を離さないままなのも……このあと、業務は普通にあるから止まったままなのは非常によろしくない。互いに告白していないから、『ありがとう』で終わるにしても、いやな終わり方にしては意味がないものだ。
『芽衣ちゃん。これ、手作り?』
とりあえず、穏便に事が運ぶように手助けくらいはすべきだと、サックは動くことにした。その声掛けがよかったのか、拓馬は芽衣の手を掴んでいたことに気づいて慌てて離れてしまったが。
「あ、うん! ……お世話になっているし、どうかなって」
「あ……ありがとう、芽衣ちゃん」
「いえ! サックくんに誕生日のこと聞いちゃったんで、迷惑かなって思いかけましたが」
「迷惑じゃないよ。すごく……嬉しい」
「よかったです」
それ以上のことは何もなし。芽衣はともかく、拓馬は怖気づいてしまう癖があるのでこれで終わりなのか。臆病が前に出てしまうのは仕方が無いにしても、『わざわざ』手作りしてきた意味を素直に受け止められないようだ。
サックは半分相談で聞いているから知っていても、互いに受け止め合わないと意味がないこともAIであれ理解はしている。
とはいえど、ここまで互いに進展し合わない男女というのは、どこをどうしたものかと思うしか出来ないのは……見ていて歯がゆい。さっき画像に残したものを帰宅後に拓馬には見せつけてやろうと決めた。
「中身、見てもいい?」
「あ、はい」
しかし、少しばかりは会話が進展していたので聞き耳を立てるようにしていれば。
拓馬は箱の中にあるケーキを確認したようで、『わぁ』と喜びの声を上げる。芽衣が、サックが渡したメモの中からどれを作ったかを見たいので近づいてみれば……純白の湖面が広がるように美しく仕上げたレアチーズケーキのタルトだ。サックは食べれないが、拓馬ならぺろりと平らげられるサイズだ。15cmくらいなら、甘党の彼には余裕でしかない。
「ありがとう。帰ってからゆっくり食べるね?」
「はい。喜んでもらえてなによりです」
「うん。前のとこのオーナーからは酒ばっかりだから、俺甘いの大好きだし嬉しいよ」
「そうなんですね?」
少しずつ会話が続くようになっていく。これを機に、拓馬がどう動くのかもサックは芽衣以上に楽しみでしかない。12月になればクリスマス。デートに誘うかどうかはともかく、芽衣の誕生日がたしかそのあたりだから……履歴書を見直して、改めて何か用意くらいはするだろう。
ふたりの会話が少し弾んでいるのを邪魔しないように、今日のジェラートがいくつか出来上がるのを確認しに行くことにした。ふんわり滑らか、甘過ぎずスッキリとした味わいの温泉水ジェラートたち。
彼らのような、蕩ける甘さが絶妙なカップルになって欲しいものだと思うのは、『感情』プログラムの演算結果なのかどうか……サックにも正確にはわからない。だが、俗にいう『玉砕』して『シルキー』の中がめちゃくちゃになるのは嫌だから。ハラハラドキドキのような感情が機械であれ渦巻いているのかもしれない。
少しばかり、人間寄りの性格が強い『育成プログラム』が進んでしまったのだろうか。チューニングは必要なくとも、これがおそらく感情で言う『心配性』の一端かもしれない。調整が難しいものだと納得しておくことにした。
そして、帰宅後に例の画像をプリントアウトして見せつけようとしたが。
「嬉しいな。……タルト、本当に作ってくれた」
夕食後に食べようとしていたときの表情を見て、余計な茶々入れないでおこうと……まだ、見守りくらいにして、画像は保存だけにした。
毎日更新少し緩和
次回は月曜日〜




