第33話 上司だけでなく、家族と
あの夏の直帰からちょくちょくだが、 『シルキー』に通うことが出来るようになり。その関係で、部下の伊東とも仕事以外で話す機会が増えた。
和気あいあいとなっているか自信がなかったが、コミュニケーションを少しでも円滑にしようとしないと九条の悪い癖がすぐに出てしまう。優柔不断な性格が前に出てしまい、行動に移せないところだ。仕事ではよほどのことがない限りないのだが、プライベートに関してはあの店に行くか行かないかで悩んでいたときくらいに前面に出てしまう。
「また新商品出たらしいですよ、九条さん」
「へぇ? 今度はどんなフレーバーなんだい?」
「えっ……と、HPの説明によると、エクレアをイメージしたものだって」
「なんでもありなんだな?」
「日本のアイスのなんでもありとかにあやかっているんじゃないっすか?」
「まあ、たしかに」
海外以上に、日本の食品部門は開発担当がピンキリくらいに存在する。客のニーズに合わせて、どの会社も切磋琢磨しているらしいが、自分たちはSEなので、IT企業関連だから関係はない。だが、少しばかりの楽しみとして、食事の好みを共有するくらいの会話が増えるきっかけになってきた。
それについては、話のネタとして使う分には楽しんでいるのだ。
「美藤が先に食べたんですけど。コーヒー風味で美味しかったって」
「ああ、彼女が言うならそれは期待できるね」
部下のひとりと交際している伊東だが、円満な関係を築けているようでこちらも安心することができる。社内恋愛禁止じゃない会社ではあるし、良好な関係であるのなら九条もなにも言わない。並んで歩くところはあまり見かけないが、公私混同はいくらか避けているかもしれないと思っている。あくまで、予想でしかないが。
とりあえず、新作の『エクレア風』を食べに行くのに週末になってから家族と湊星商店街へ行くことにした。秋から冬に近い気温となっているが、たまの週末に散歩ついでに行く楽しみを覚えた九条家としては別段苦ではない。
息子の夏哉は二歳になるが、アレルギー持ちではないのでジェラートも好きなものを選べられる。さすがにラムレーズンは避けているが、それ以外を毎回選ぶ楽しみがあるのかでストッカーと少しにらめっこするのは可愛い悩みだ。
「あ、あ、! サっ、クくー!!」
九条が今日は抱っこしていたが、サックの姿が見えるとじたばたしながら前に指を向ける。たしかに、今日も元気いっぱいの様子で接客しているサックは夏哉の声が聞こえると笑顔で手を振ってくれた。
『や! 夏哉くんご家族いらっしゃいませ~』
「こ、にちは!」
『うん。こんにちは』
そして、息子を抱っこしているからこそのポイントは。父親としても彼のもふもふした人工毛に触れることだ。夏哉ほど大胆には触らないが、はじめて触れたときは上質なボアマットを想像してしまったほどに感動したものだ。
今日も負けないくらいの毛並みを息子と堪能したあとに、列へと並んだ。当然、妻にはバレているので苦笑いされたが。
「もっと堂々とすればいいのに」
「……難しいことを言わないでくれ」
「はいはい。恥ずかしがり屋なんだから」
「……」
建前とかはともかく、気恥ずかしさがあるのは本当なので理由もなくもふもふに触れることが出来ないのは仕方ない。夏哉はまだ触っていたかったようだが、母からジェラートが食べれなくなるよと言われたので、ぐっと我慢したようだ。
「「いらっしゃいませー」」
順番が来ると、夏哉は『キャー』と声をあげてストッカーの中身に感動したのか。たしかに、九条の目から見ても今日のジェラートたちは宝石のように輝いて見えた。冬に近づいていることもあって、果物の色合いが赤とかが多かったからだ。
「あなた、新作はそれぞれ入れる?」
妻がエクレア風のストッカーを見て言ってくれたので、それにはもちろんだと頷いた。あとのチョイスは彼女に任せ、夏哉を片手で抱き直してからスマホを取り出すことにした。だいたい、家族で来るとこんなルーティンが自然と出来るようになったのだ。
「なっくん、チョコ~」
「はいはい。ちゃんと選んでおくから大丈夫よ?」
夏哉にはひと口ふた口では足りないので、せめてもと一種類をカップで頼むようにしている。ダブルショコラは甘過ぎるので、いつものお気に入りはチョコチップだ。
会計後に受け取ってから、ベンチ席で食べることに。ストリートから真っすぐ吹く風は少し強いが夏の時期と違ってミスト以外の空調設備は特にない。しかし、それでも食べたいというジェラート屋の行列はいつ来てもだいたい同じだ。
北側には温泉施設があるし、ほてりを冷めるのはコーヒー牛乳以外でも求める客が多いからだろう。
商売上手、と、九条はシルキーの店長を見て思うが、味落ちしないこだわった製法でのジェラートはいつ来ても最高だった。今日のエクレア風のも妻といっしょにまた笑顔になれるくらい。
「カスタードとチョコって、なんでこんな美味しいのかしら?」
「カロリー爆弾だけど。美味いよな、毎回」
「おいちー!」
「なっくんにはひと口だけね?」
「あーい」
買い食いにしてはそこそこ出費は出るものの。家族との団欒に一役買ってくれるのなら、少しくらいはいいとも思うようになってきた。そのきっかけが部下らの話だったが、その中に自分が加わってもなんら不思議ではない会社の日常にも感謝しなくては。
ブラック企業だなんだと言われないように努力するのは、上司として普通でも。
支えてくれる彼らがいてくれるからこその、日常だ。
家族ともこうしてゆったり過ごせているから、リラックスした時間はきちんと作れている。伊東や美藤もこれを食べに来ただろうが、共有できる感動はいっしょに分かち合えるのは楽しいことだ。
週末の楽しみは、すぐに終わらない。ジェラートを食べたあとは、近くの公園で夏哉を思いっきり遊ばせるのもまた家族タイムの一環だ。
次回は月曜日〜




