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もふもふAIが温泉水ジェラートを売っています  作者: 櫛田こころ


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第3話 育成期間中は

 人件費削減のためのAIを無事購入したものの、育成期間にはそれなりの時間をかけるのは覚悟していたが。


 基礎基本の挨拶から日常会話まで『自分に合わせて』調整していくのはなかなかに難しい。これまで、ろくにゲーム以外にも小説やマンガも嗜んでこなかった拓馬。育成に必要な『会話』スキルなんて接客くらいしか役に立たない。


 しかし、喫茶店ではなく『ジェラート屋』なので、そこそこに明るい雰囲気を持たせたかった。


 マスコットキャラクターとも言えるサックの外見から思うに、元気溌剌な感じが望ましい。そのため、最初のうちは資料になるような動画を探してきてはサックとともに見たりしていた。



「サック。こんにちは」

『こんにちは、マスター』

「うーん。まだ固いな……サック、俺の名前は?」

『名前。ネームは、我孫子拓馬様』

「……サック。俺のことは拓馬って呼んで?」

『NO』

「……サック。店長と呼べる?」

『YES。店長』



 動画を見ながらも、会話を成立させるのにはなかなかに根気のいる工程だ。開発者はともかく、一般人にも購入可能な範囲で『育成プログラム』は自分任せ……なのは、かなり大変だった。しかし、それこそ女の子の人形遊びや男の子の変身ごっことかに近いあれかもしれない。


 そういう遊びを特にせず、運動ばかりしていた拓馬は脳筋とまでいかないが思考回路がどうもそっちよりだ。地道に頑張っていくしかないと、毎日毎日サックとの会話を繰り返していったら。



「サック、おはよう」

『おはよー、店長』



 挨拶の語彙に、ほんの少しずつ変化が出てきてくると少し嬉しさが込みあがってくるものだ。この調子なら、次はこれから自分たちが扱っていく商品の『レシピ』を覚えてもらえるだろうかと考えてみた。



「サック、料理とか作ってみたい?」

『料理。……店長が自分で食べるご飯?』

「君は電力だけど、俺じゃない人が食べるご飯とかおやつ作るんだ」

『……僕が?』

「やってみる?」

『YES‼』



 やる気が表情にも出るようになってきたので、さっそくと言わんばかりに材料を用意していく。今回は初回なのと、拓馬が好んでいる味と言うこともあって……作るのは、チョコチップとクリームのやつを。


 例の温泉水はまだテナント契約手前なので、水道管契約はしていない。今回は事前に購入しておいたペットボトルの中身で作れる量の分だけだ。



「サックには鍋の中身をゆっくり混ぜるとこかな?」

『……混ぜ混ぜ?』

「そう。焦げないように」

『……こ、げ?』

「変な匂い。嗅覚で感知できたら、それがダメってことを覚えよう」

『YES!』



 市販のコンデンスミルクでもいいが、せっかくの専門店を目指すのでここは手作りの練乳からスタートだ。サックに混ぜ方を教えつつ、途中鼻につく甘い香りがしたらほんの少し温泉水を入れてみた。


 結晶体は出てこなかったが、味見したときにほんの少し塩気と花の風味みたいな感じがしたので成功かもしれない。これはとろみが出て粗熱が取れたら、冷蔵庫でしっかり冷やす。



「チョコチップは手作り感がいいから」



 板チョコ数枚を粗みじんにして刻んでいく。この作業は人工毛でもサックの手がかなり汚れるため、本番などでは業務用の衛生手袋を買うかと片隅に考えておいた。


 食品衛生管理者の資格はあるが、衛生管理を特に気にしなくてはいけない飲食業。こうやって、家で好き勝手に作るのと訳が違うのだから。



『店長~。こっちの混ぜ混ぜどうかなー?』

「どれどれ??」



 刻んでいる間に、ホイップクリームを作ってもらっていたが。まだまだゆるゆるだったので、手本を見せるべくシャカシャカとかき混ぜ……数分で角が立つくらいにまで固さが増した。



『すごーい~』

「これを目指そう。業務用の機材を扱う時はまた違う使い方だけどな」

『力仕事なら、AIで出来るよ~?』

「いや、一種類で売るわけじゃないから」



 この会話がスムーズにできるようになるまで、約数か月。時間がかかったものの、次は本格的にテナントとの契約や工事も進めていかなくちゃならない。


 家庭的で、それなりに美味しいものではなく。きちんと『商品』として売り出すのにふたり以外にも喫茶店のオーナーからも味の評価をいただけたが。



「塩ジェラートとはまた違って面白い味だな? いいんじゃないか?」



 とお墨付きをもらえたため……そろそろ店名をつけようと拓馬は意気込んだ。

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