第2話 もふもふとの対面
拓馬がそもそもジェラート屋を開くきっかけになったのは、商店街に温泉がちょうど発見された……今から三年前くらい。
「へぇ……? 変わったジェラートとか、いいな?」
自営業を始める前は、喫茶店などの雇われ店長で創作料理を作ることを仕事としていたのだが。そろそろ資金も調ったことだし、自分の店を持ちたい夢を抱いていたのだ。とはいえ、『商品』を何にするのか。店の規模など、色々検討すると迷いに迷いが生じてうまくいかない。
これまでの仕事も活かせば、ワンオペも出来なくはないものの……なるべくのんびりと仕事をしたかったため、喫茶店はすぐに却下した。
なので、イートインスペースのない『店頭売り』になるとスイーツがいいかもしれないと探した中で、『温泉水入りのジェラート』が気になったのだ。地方に行けば名物として扱われているが、市内などの人がよく行き交う場所にはそのようなものがないとされている。
さらに、近所で最近発見された『温泉』は情報によれば『飲料水』可能と聞く。このチャンスを逃さないためにも、商店街のテナントの空きを確認すればいくつか候補はあった。
「あと、問題は人件費……」
ジェラートはこれまでも作ってきたことはあるが、専門店となると『製造量』が喫茶店とは段違いに多い。人を雇うべきだというのはわかるが、オープニングスタッフは知人にお願いできても長く続く人材を雇えるか目利きにはあまり自信がなかった。
そのことを踏まえながらも、テナントを見学していく。喫茶店のオーナーには退職の理由はきちんと話し、自店舗の段取りもある程度伝えたら……面白いことを教えてもらえた。
「ロボットいうか、AIってもんがあんだろ? 最初の投資費はまあまあするが、チェーン店のより性能がいいのあるらしいぜ?」
「AI? 端末の中で学習機能を整えれば……のあれですか?」
「それの、『外側が生き物ぽい』って言うのだと」
「……アニメのキャラクターみたいにですか?」
「そんな感じだ。法律とかで人間のようなアンドロイド版はまだ認可が下りてないらしい」
「ああ。それで」
とくれば、せっかくのアドバイスをもらったので隣の大きな市に出向くことにした。購入するかはともかく、どのような機能があるとか可動域はどうとか。タブレットを購入する以来の買い物なので、大きなビル内に入るのは少し緊張した。
(……どんなのがあるかな)
エレベーターに乗り、家電量販店ではないテナントに足を向ければ……たしかに、オーナーが行っていたように人間の姿をしたアンドロイドぽいのはいない。いわば、映画などの実写版で使われるような『獣型』などがほとんどだった。もふもふした毛並みが触りたくなるくらい誘う印象を受けるくらい可愛いものからかっこいいものまで。
「いらっしゃいませ」
店員はさすがに人間だったが、フロアにはひとりしかいないようだ。落ち着いた雰囲気の男性で話しかけやすそうだったので、さっそく質問をしてみることに。
「あの。飲食店経営を考えているものなのですが。知り合いにここを紹介されまして」
「なるほど。お客様がメインで、AIはサブと言う感じをご希望で?」
「そうですね。学習が整ったら、色々任せたいんですが」
「ちなみに、商品をお聞きしても?」
「ジェラートです」
「獣型がうちの場合多いですが、人工毛なので抜け毛対策は大丈夫です。外見のタイプのご希望は?」
「うーん。女性客が多いかもしれないので、可愛い感じが」
「それぞれの部品をカスタマイズして、オリジナルの外殻も出来ますがいかがでしょう?」
「……だいたい。相場を聞いても?」
「そうですね。サイズにもよりますが……これくらいは」
「……分割払いは」
「出来ますよ? もちろん、今日決断されなくても大丈夫ですし。パンフレットをお持ちしましょうか?」
「……お願いします」
QRコードで詳細を読み取れるパンプレットをもらい、帰宅してもそこから数日かけても悩みに悩み続けた拓馬。
見た目も自分好み。性格は育成次第だが、指導力はオーナーからも悪く言われたことがないのでそこまで失敗する可能性は低い。初期投資にしてはそれなりに資金を溶かしてしまうが……人件費を少し抑えるため、と考え、再びあの店に訪れた。
「では、組み立てとデザインは当店で行えますので」
同じ店員が対応してくれたので、部品の選択と組み立てを慎重に行って出来上がったのが……毛並みがサモエドのようにふさふさした、長いタレ耳が愛らしい外殻。性別は男にし、名前は『サック』にしてみた。安直だが、トッピングの食感でも語彙から選んだものだ。
起動してみれば、人間にはないいちごみたいに赤くて丸い瞳がきらきらと輝き出した。
『よろしくお願いします、マスター』
「……よろしく、サック。今日から、君は家族だ」
『YES』
「……あの。最初ってこんな感じなんですか?」
「チャット機能の延長線みたいになるのは仕方なくて。あとは、お客様の育成次第です」
「わかりました」
ともあれ、独身男性が急に可愛いペット以上の同居人を作ってしまったのだ。二十六歳とはいえ、今までペットを飼ったこともない拓馬はここから半年くらいかけてサックの育成には力を入れたものだった。




