第1話 商店街のジェラート屋さんでは
新作ですんー
その商店街は町中にあるにしては、ほんの少し変わった『名物』がある。
ちょっと昔に、北側の奥の方から『温泉』が湧き出たのだ。間欠泉がいきなり見つかり、いきなりお湯が噴き出してきたので、あらあら大変だと住民は騒いだものの。市長の手厚い対応により、工事が終わった後には『温泉プラン』と水道管の仕組みを変えてくれるなど、ひとり占めしない対策を取ってくれた。
その温泉は効能も確かだが、『飲める』ように加工することが可能だったため。間欠泉近くに建てられた温泉施設以外では、食事に利用する店舗もいくつか出来たのだった。
これからお話するのは、その中のひとつ。
可愛い可愛いもふもふと営む、温泉水の『ジェラート』を作るお店でのお話。
*・*・*
商店街のシャッターが閉まっている朝方。
それぞれの店内では営業時間までに、仕込みをしたり準備をしているところがほとんど。そして、その店も同じだった。
ただし、仕込みをしているのは人間だけじゃない。背丈は小学生くらい、もふもふした白い毛並みには専用の赤いエプロンがよく似合う。
ゴウンゴウンと、くるくる回っている機械に見惚れながら……ではなく、材料をゆっくり入れるタイミングを見計らっていた。
『3・2・1! 温泉水投入~~』
しゃべる犬か猫か。その間くらいの曖昧なもふもふとした生き物でもないそれは。この店の店長が自ら組み立てや育成を手掛けた『特殊AI』。
彼を、『サック』と名付けたのも店長だ。
今サックが作っているのは、クリームはクリームでも『アイスクリーム』に部類されるジェラートだ。どろっとしたのが特徴なそれに、この商店街の名物である『温泉水』を入れて作る……さらに名物と噂が立つほどの逸品を機械に任せているのには理由がある。
正確さ。味の調整が一定。バグをときどき修正すれば、次のレシピを学習させても問題がない。
あと、人件費が初期投資を除けば、多少おつりがくるくらいに安価なのだ。今の時勢の政策もあって、そんなことが一端の個人事業主でも可能なのだが。
もちろん、サックにまかせっきりではないので、店長はジェラートの仕上げになるトッピングの支度をしていた。
物語の主人公、我孫子拓馬はサックが今作っているチョコレート系に合うタブレットチョコなどの計量をしている。
「サック、あと何分で出来そう?」
『チョコが五分かな? 次に向こうのミキシングで抹茶仕上げるから、そっちは二十分』
「りょーかい。夏場になってきたから、今日も大忙しだろうな?」
『僕らのジェラートは温泉水を使っているから、とびっきり美味しいもんね!』
「もちろんさ」
そんなやり取りをしつつ、開店時間になっていけば。まだ開店前だと言うのに、常連やそれ以外の客たちが列を作って並んでいたようだ。一番前にいた常連のOLが昼休みのタイミングで来たのか、ハンカチをぺとぺとにしながらも『待っていました!』と笑顔になってくれた。
「こんにちは!! 今日も、後ろすごい並んでいますよ?」
「お待たせしました。順番にお伺いしますので、僕とAIが注文をお聞きしますね?」
『お待たせでーす!』
「サックちゃん! 今日ももふもふ!! 暑いけど、君のもふもふは見てて癒される~~」
『ふふ。宮根さん、暑さでとろとろだね? うちのジェラートで癒されて~』
「うんうん!!」
などと、『普通の従業員』と差の少ない接客が出来るように、拓馬が育成を重ねたAIがサック。常連でも最初は『わざわざ?』『なんで?』の質問も多かったが、数年で根付いた店となればそれもまた名物のひとつとなっていく。
外装はもふもふの毛なので、ゴム手袋をしたサックが丁寧にコーンやカップに入れていくジェラートは陽光に照らされると輝いて見えるのはいつものこと。温泉水の効果なのか、少し結晶体が含まれているのでそんな錯覚ぽいのが見えるらしい。
と、文言をつくったのは雑誌記者の常連が仕事でインタビューしてくれたお陰だが。
今日も今日とて、ほんのり花のような風味のする温泉水のジェラートは順番に売れていくのだった。
今日は三話!!




