第28話 恋煩いしています
『シルキー』の定休日ではあったが、拓馬は昼過ぎまでゆっくり寝ていたのに顔色が冴えないでいた。
その理由のひとつは、彼なりにわかってはいる。バイト一年目の武藤芽衣と会えないのは定休日がほとんど。一介の店を切り盛りしている若手の店長とバイトが休日もいっしょに居るかと言えばそうでもない。
(そりゃそうさ。俺と彼女はそれ以上の関係でもなんでもないし……)
歳の差はあれど、一方的な片想いでしかないのは重々承知。少し前に、休日出勤はしてもらったりもしたが……今はテスト勉強が増えてきたとかで、大学一年の締めくくりに近い秋考査のために必死のよう。
バイトの日数も少し減ったりしたが、本人曰く、『気分転換も兼ねて、出たい』気持ちはあるらしい。しかし、単位を取得しないと進級も出来ないのでそこは我慢しているそう。拓馬も一応大学卒なのでそれはよくわかるし、無理強い出来ない。
だけど、会えないと寂しいし、時間の過ぎ方がつまらないと思ってしまう。同居人にAIのサックが居てもそれはそれでまた違う感情だ。癒しを求めているのとも違っている。
単純な話、『恋煩い』の病気真っ最中なのである。そろそろ、自分の誕生日も近いがその日も営業日以外に特定の約束を芽衣も含め、誰ともしていない。
『てーんちょ? 疲れたの~?』
家の掃除がだいたい終わったのかで、サックが声をかけてきた。拓馬はというと、ノートパソコンとかと向き合って帳簿をつけていたくらい。自営業をしているので、個人事業主としての役割は業務中だとなかなか出来ないため、休日を利用することもあるのだ。約束がないせいもあるけれど。
「いや。帳簿はもうすぐ終わる」
『お昼ご飯どーする? 作ろうか? 食べに行く?』
「まだ準備してないんだ?」
『休みの日の気分転換。『更紗』にでも行く?』
「秀一くんとこか。……今日はいいかな?」
元勤務先の現店長。オーナーの息子で、元ニート。お互いすれ違って、三年近くは経つが微妙に接点を持つとにらまれるのではと勝手に思っている。思い込み過ぎもあるが、人付き合いの苦手な拓馬としてはあまり近寄りたくない。だから、オーナーの方も、わざわざシルキーの方へ来てくれるのかも。
『……店長? 色々臆病になってない?』
「……なるね。自分のこともほかのことも」
サックには瞬時に演算処理で見抜かれるくらいに、彼の育成プログラムは整っている。整い過ぎて、逆に人間性のそれに近い感情まで抱えている気がするのだ。芽衣のことも心配してくれているらしいが、必要以上にはツッコミを入れてこないのはありがたい。
これは人間同士とか関係なく、拓馬が抱えているのを慎重に打ち明けなくてはいけない問題だからだ。
『ん~……じゃあさ。僕も手伝うから、『好きなもの』作ろうよ』
「好きなもの?」
『店長の好きなご飯だよ。それを夜の分まで食べれるくらいにたくさん。気分転換に料理したら、気晴らしにもならない?』
「……食べるの俺だけだよ?」
『それだったら、芽衣ちゃんとかに差し入れに行く?』
「! ……それは、勘弁してください」
『勢い弱いんだから~。恋しちゃってるのに、奥手過ぎない??』
「変に思われたくない。あんな純真な子がバイト辞めたら……俺、店続けれるかわからないよ!!?」
『もぉ~~』
きっかけになれば、と思うこともあったりはしたが。
芽衣とは歳の差以上に、近しい存在として見てくれているかの自信がなくて怖いのだ。向こうは成人して間もない少女。こっちは中年手前の男だ。
見てくれはともかくとして、手を差し伸べても受け取ってもらえるかがわからない。その臆病さがどうしても拭えずに苦しくて堪らないのだ。自然消滅の恋愛しかしてこなかった拓馬にとっての、本気とも言える『恋煩い』は悶えるくらいにこじれてしまっている。
だけど、差し入れとか考えると。店の休憩時間に『おやつ』になるものを用意することくらいは忘れていたと思いだし、賄いの準備くらいはしようとサックに再確認して呆れられたのだった。
「変、かな?」
『賄いはいいけど。曖昧にしたままで、三十歳までこじれたら……芽衣ちゃん大学で彼氏とか見つけちゃうかもよ?』
「……なんか、やだ」
『だったら、頑張れ~~』
AIに応援されるくらいに、自分の気持ちがこじれている自覚はあるが。若くてフレッシュな男たちに敵うかどうかに自信が持てないでいた。
自分の誕生日も近いし、何かしらのプレゼントが欲しいと思うのはおこがましいかもしれないが。ここ半年と少しで見てきた、芽衣の人柄と可愛らしさに絆されたことについて、もう引き返せないところまで来ている。
なら、と、帳簿の目処をつけてから立ち上がり。喫茶店時代以来の賄いを仕込んでみることにした。定番的な、ピラフとかオムライスとかをだが。
次回はまた明日〜




