第23話 クランチ用の材料を
ジェラートに限らず、最近のアイスには『クランチ』が随分と多用されているものだ。
クッキー、ビスケット。
ナッツ類に、あとはパイやタルト。
今回、拓馬は芽衣に少し仕事を増やしてもいいのではないかと思い、せっかくなのでシルキーでは人気の高い『タルト生地』のレクチャーをしてあげることにした。
「……ハードル高くないですか?」
「大丈夫。大まかに言えば、クッキーとかとそこまで変わりないし」
タルトをパイ生地で作る場合も、その店によって個性が出たりするが。拓馬はレアチーズケーキのタルトを好んで作るときはアーモンドプードル入りのそれの方が多い。
この生地作りを覚えれば、ほかのジェラートだけでなくケーキ作りへの応用にもなる。あと、勝手な思いつきではあるが、料理の幅を女の子が広げればクリスマスやバレンタインにもらえるんじゃないかと、密かな野望を持っていたりもした。
自分は自他共に認める料理男子ではあるが、好意を持っている相手からの『義理』でもいいから欲しいなどとは簡単に言いづらい。だからこそ、お菓子づくりをあまりしたことがないという芽衣の見聞を広める意味も込めて、今回の業務を教えることにしたのだ。勝手な自己判断である。
「あ。これ番組とかで見たことあります! 重石になる石でしたっけ?」
芽衣が気づいたのは、重石になる『タルト石』のことだ。オーブンに入れても熱伝導だけでなく、焼けない石なので『ストーン』とも呼ばれているそれは前職の店長時代に使っていたのを、オーナーが寄越してくれた相棒だ。
「それは焼くときにつかうんだけど。まずは、生地作りからだね? 無塩バターと卵黄は室温に戻す。お菓子作りとかだと、この工程はそこそこ聞くよね?」
「そうですね? 冷たいままだとなんでダメなんですか?」
「適温にした方がいいとか、かな? うちもだけど、冷たい部屋で作業するときの適温にしておけば、ほかの材料と混ざりやすい。その材料の性質を生かすとかもある。あと、温度を下げ過ぎると混ざりにくいから」
「また一個、覚えました」
「そんな意気込まなくていいよ? 粉類を篩にかけておくことも似た意味があるくらいだね」
「むむ……」
そこまで難しく考えなくていい、は逆にプレッシャーをかけてしまったか。サックは拓馬の気持ちを知っているので隅っこで普段は点検しかしない器具の掃除をしているので、会話には加わらない。
やはり、意識している相手には混乱するような言い方しか出来ないのか。単に、業務指導の下手な部分が出ているのか。どちらにしても、タルト生地は芽衣中心に作ることにした。
バターの練り方も知らなかったのかで、泡立て器で混ぜるのは見た感じ楽しんでいる。
「砂糖は三回くらいにわけて入れるんだ」
「なんか、クリーム作っているみたいですね?」
「あ、少し正解。海外のバタークリームケーキとかはこれぐらいもったりしてるそうだよ?」
「……カロリー過ごそう」
「まあ。僕たちが作っているものも、カロリー高いものだし」
気にしては意味がない、と続きを進めていく。卵黄を加えてもちゃもちゃしていくのをよく混ぜてムラがないようにしたら、器具をゴムベラにチェンジ。粉類を一度に加えて、塩もひとつまみ。さっくりと混ぜて粉っぽさがなくなったら、生地がだいたい出来上がる。
「この生地を型に押し付けていくんですか?」
「二等分にして、それぞれラップを使ってだいたい正方形に。今回の量はふたつ作れる材料だからね? 明日のブルーベリーパイとレモンタルトに使おうと思うんだ」
「! レモンタルトに私が作ったのを?」
「君のアイデアから出た商品だからね? もちろん、使わせていただくよ」
ただ生地とかは寝かせる必要があるので、一時間かそこらは冷蔵庫で待機。仕上がるまでに拓馬たちもサックの作業で出来ていないところを手伝うことにした。
『店長~? いい雰囲気ってやつ、出てたかもよ~?』
「……そう、かな?」
わざわざ、定休日に呼んでまで業務の追加を言い渡しても嫌な顔一つしないということは……少しくらいは、好かれているんだなと思うくらいにはなれる。しかし、まだまだ恋愛臆病者には変わりないので、告白したら退職されるのは非常に勘弁願いたいために出来なかった。
そして、作ったタルト生地は焼き上がったあとの試食で文句のない仕上がりだったため、言った通りのフレーバーに使用することにした。なので、ときどきだが芽衣にもジェラートづくりのサポートをしてもらうことになったのだ。
ジェラートの基本はサックが、トッピングのメインに拓馬。それぞれのサポートに芽衣が。
三人でちょうどいい分担作業になってくる頃には、夏休みも終わりが近づいてきたのだった。
秋は秋で、タルトはかぼちゃとスイートポテトがくるので芽衣の生地は大活躍の予感しかない。無敵のフレーバーへの探求心に向けて、拓馬もまたメニューへの改善に意気込んだ。
次回はまた明日〜




