第22話 常連その②の選び方
どこにでもいる普通の主婦・加古真波には週末の楽しみが一つあった。
温泉地として、そこそこ有名になってきた湊星商店街のとある店に訪れること。温泉を飲料水として扱い、さらにデザートの材料として扱う『ジェラート屋・シルキー』。そこへ家族とは別に、単独で向かうのを週末だけの楽しみとしているのだ。
開店から約三年。子どもも保育園に入学し、あと一年かそこらで小学生になってしまう。それくらい通い詰めている店なのだが、如何せん価格が高めなので毎日のようには通えない。
それでも、味の良さに口コミの良さだけでも人気を維持し続けていた。ここ最近はホームページやSNSの拡散もあったので、真波ももれなく参戦している。真波以外の常連たちと相互のフォロワーになったりもしたが、週末の楽しみの日だけはひとりで行くことにしているのだ。
元喫茶店の店長だった、我孫子拓馬への『推し心』を堪能するためにも、と。恋愛感情でない親愛以上のそれを感服するのも推し活の務め。そんな彼と相棒のもふもふAIのサックがつくるジェラートは天下一品とも言える味わい。
元常連客で今は大学生の芽衣がバイトに入ったときは驚いたが、きちんと業務をこなしているし嫌がる仕事を進んで行う姿勢には感心したものだ。それに、拓馬の爽やかなイケメンっぷりとキュートな芽衣の並ぶ組み合わせも、また推せるものだと納得している。
娘の心愛は園のプール開きだからと送り届けてから、帰りの自転車でそのまま商店街に向かうことにした。商店街の駐輪場に止めてから向かっても、相変わらずの行列の長さには毎回驚く。
しかし、メインストリートにはアーチ状の日よけが設置されているのでそこまで暑くは感じない。夏真っ盛りになると、温泉施設で収入が安定しているのかでクーリングのミストも解放されるが今日はそこまででもない。
最後尾にはサックがいたため、いつものようにあいさつしてから並ぶことにした。
「こんにちは、サックくん」
『真波さーん! こんにちは。今日はいつもの?』
「心愛はプールだから、ひとりだけのお楽しみよ。旦那とかとはまた連れてくるから」
『ごひいきにありがとうございます~』
毎度驚くが、回答の切り替えが早いし流暢だ。育成次第と言えど、やはり我孫子がプログラムのメインに携わっているだけのことはある。
(ということは、今は芽衣ちゃんとふたりの接客か?)
推しが可愛らしいものといっしょなのは、さらに推せる。芽衣は自覚があるかはわからないが、大学生になってメイクが事実上解禁になったから、ナチュラルなそれでも十分に可愛い以上の破壊力を持っているのだ。
彼女目当てで並ぶ男性客もちらほら見えるが、結局は美味しいジェラートに感動して通い詰めているのもあるだろう。
花のような香りがふわりと広がり、適度な塩気が口の中をさっぱりと満たしてくれる。温泉水ジェラートだが、海外でも一部知られている『ソルトジェラート』の部類だと我孫子が前に言っていたが。
どのジェラートも。
カップでも、コーンでも。味わい深いそれを週に一度以上のご褒美にするのが真波にとってここ数年の推し活。
家族全員で食べるそれも間違いなく美味しいのだが、若い世代に戻ったつもりで出歩く今日みたいな日は間違いなく子どものように心が幼くなっている。しかし、それもまた推し活の醍醐味。
童心にかえらずして、推し活はあるべき心の栄養源なのだから。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ、加古さん」
考え込んでいたらもう順番が来たので、さっそくとストッカーを見れば先週末とそこまでラインナップは変わらないでいたが。食べてないものも多かったので、今日はそれを選ぶことにした。
「アサイーヨーグルト、ブルーベリーパイ。あと、フォンダンショコラ……今日はコーンで」
「ありがとうございます。すぐにおつくりしますね」
「お支払いはどうされますか?」
「バーコード決済で」
「QRコードの読み取りお願いします」
この流れる作業を定休日以外、毎日のように続けていくのだから人件費削減とやかくではないだろうに。サックと芽衣だけで切り盛りしている我孫子は今日も眩しいくらいの笑顔を見せてくれていた。
またひとつ、推しの爽やか笑顔を摂取出来て感無量としか言えない。受け取ったあとは、ベンチかテーブルが空いてたらそこで食べるが今日は満員だったので歩きながら食べることにした。試食スプーンはレモンタルトというものだったが、レモンの風味とタルトのビスケットクランチが絶妙な割合で食べやすかった。
夫も結構な頻度で食べたいというくらいの、お互いの推し・我孫子拓馬のお店。
ひとまず、報告がてら画像をラインで送ったら『いいな~。明後日行こうよ』と休憩中なのかですぐに返事が来た。
(あ~……今日も美味しい)
笑顔のきらめきを吸収した分、より一層美味しい気がしたのは気のせいではないだろう。
次回はまた明日〜




