第21話 常連その①の選び方
彩香は自分の夏休みが出来たと分かれば、一週間あるうちの二日は湊星商店街で食べ歩きをしようと決めた。
「片方は朝から晩まで。片方はランチだけにしようかな?」
定収入ではあるが、最近すこーしばかり食べ歩きの節約をしてきたので。ここぞとばかりに二日くらい贅沢をしても構わないだろうと決めて。
しかし、二日とも共通の食べ物は、もちろん元喫茶店の店長だった我孫子が営むジェラート屋の温泉水ジェラート。
開店してから通い詰めて、三年目になるが飽きることがない。季節ごとや我孫子の気まぐれか何かで限定メニューも出るのだから、その都度の気分で選ぶために飽きが出るわけがないのだ。もともとの味がいいこともだが、あのもふもふAIのサックを搭載していることもあり、味のブレが少ないように調整しているのかもしれない。
ときどきだが、我孫子がサックと業務連絡の内容を話すのが聞こえたりしたからだ。それと、春休みから入社した元常連の高校生だった芽衣も加わっているので随分と賑やかになったが。
「女の子のときめくメニューが増えて、こっちとしては嬉しい限りだけど」
男性客もそこそこ多いが、ジェラート目的ではなく彼女目当てに冷やかしに来ている者もいるのだろうか。実際のところ、芽衣の進めるフレーバーはどれもが美味しいので結局は陥落することになるだけに終わっている。
そして、夏休み初日当日。モーニングで腹を適度に満たしてから、散歩と称してウォーキングまがいの運動で空腹を促してみる。会社の休憩時間だとついついお菓子の早食いをして、物足りなさを感じてしまいがちになるが。
それが『太る原因』の一端だと、SNSの情報が本当かどうかはわからないものの、試してみれば彩香には一致する箇所が多かった。なので、食べ歩きと同時に軽い運動も兼ねて、出歩くのを楽しみにしているのだ。
そして、ランチを堪能してからシルキーに向かう。夏休み期間の真っ盛りというころもあり、平日の曜日だろうが行列が出来るのは仕方がない。今日の最後尾には芽衣が立っていたので、せっかくだからとあいさつすることにした。
「め~いちゃん」
「あ、宮根さん。いらっしゃいませ」
「今日も大忙し?」
「まだ、いつもと同じくらいですね」
「そなんだ? サックくんは店の方?」
「途中で交代ですが、今はそうです」
「熱中症に気を付けなよ? お姉さんが言っても意味ないかもだけど」
「いいえ。一応、サンバイザーとタオルは常備しているんです」
「あ、それ制服じゃないんだ?」
「自前ですね」
と、ここで列が少し動いたので会話は終了することにし。彩香もタオルを被って、専用のベストに入れていたペットボトルの水で喉を潤した。最近のレジャーグッズもなかなかに進化しているし、ウォーキング以外の走り込みをする趣味の人間にも持って来いのグッズが手軽に買えるのだ。
ペットボトルはついさっきコンビニで購入したものだが、ポケット多めのベストは通気性が十分で思ったより軽い。少し奮発して買った甲斐があったものだと自負している。
そうこうしていると、列が少しずつ動き……我孫子とサックの頭が見えてきたので、ふたつ後ろくらいからジェラートのストッカーを少し覗いてみた。今は売り切れとかはなく、どれを頼んでもいい感じに見えた。
(なにしようかな~~? さっぱり系はひとつ。あとはチョコとケーキ系??)
滑らかで舌触りも良く、後味もくどくないここのジェラートは通い始めてからのお気に入りの店。
年々の原材料の値上がりがあるものの、ほんの少し税込み価格が上がった以外は過度な値上がりがないのは大丈夫か気にはなっていた。しかし、経営について下手に口出ししない方がいいし、彩香はただの常連客。
簡単な会話はしてよくても、クレームみたいな内容をわざわざ告げても困らせるだけだ。
「いらっしゃいませ」
『あ! 宮根さん、いらっしゃ~い!』
ぼんやり考えていたら彩香の番になっていたので、気持ちを切り替えてジェラートを選ぶことにした。
「え~っと、今日は……」
ざっくり一覧を見てみたが、また食べたことがないフレーバーが増えていたので非常に迷った。そういうときはおまけスプーンにつけてくれるだろうが、長く楽しみたい気分でもあるので慎重に選びたい。
『ふふ。清見オレンジのレアチーズケーキもありますよ~?』
「! ひとつ、それで。クッキーショコラとキウイパッション。今日はカップで」
『あれ? いつもコーンなのに?』
「また明日も来るから! 大丈夫!!」
「ありがとうございます。では、お会計をこちらで」
「はーい」
スマホでキャッシュレス決済できる醍醐味もあるので、財布が小銭入れ程度で済むのもありがたい。ベストに貴重品として入れてあるが、ここだと両手が塞がるのでスマホで出来るのが助かるのだ。
もふもふの手から出来上がったカップを受け取り、軽く触らせてもらって列から離れた。今日はカップなので専用のゴミ箱前で食べることにしたが……おまけは、アサイーがたっぷりのシャーベット状に近いフレーバーだった。
(ん~~。アサイーボウルとか食べたことあるけど、こっちのがさっぱりしてる気がする!!)
ジェラートは空気の含有率が通常のアイスとは比率が違うことは学んだが。ここまで食べやすいのであれば、来るたびに違う味を楽しみたくなるのが食べ歩きのきっかけになった理由。
こってりとさっぱりの交互を楽しみ、ときどきクランチが利いた甘いものを頬張れば味のカーニバルに癒されていく。そして、暑いときに食べるアイスの贅沢さも大事だが、成分として含まれている温泉水の効果もあって、熱中症対策になりそうな塩気が嬉しい。
「……やっぱり。毎日食べたいくらいに美味しい」
それも当然だが、サックのキャラクター性が売りのひとつになっているおかげで、小学生たちがお小遣いを手に買いに来るのも増えているようだ。この前見かけたときに、何回か顔だけは覚えた子どもが今日も居たから。客としても来ているが、サックに非常に懐いているのが微笑ましく見える。
(……案外。ああいう子が、二代目とか三代目になったりして?)
まだまだ先のことだろうが、それはそれで楽しみな未来だなと彩香はまたひと口食べ進めるのだった。
次回はまた明日〜




