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もふもふAIが温泉水ジェラートを売っています  作者: 櫛田こころ


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第17話 新規のお客③(記者の場合)

 面白いネタはないものか、鈴城有紀は少し仕事が滞っているのに困っていた。



「うーん……口コミサイトのネット記事ねぇ?」



 ペーパーレスが増えた昨今でも、全員が全員ネットを駆使出来るわけではない。今の老年あたりの世代にはまだまだ紙の雑誌の方がいいと言われるし、紙の質感を楽しんで持ち歩く若い世代もいなくもない。


 ただそれでも、ネット記事の方が案件としては多いので有紀も仕事以外に自分で活用していたりもする。今回は街中のグルメスポットを視野に入れた『観光客向け』のそれを作成する仕事だった。


 場所は、三年前に間欠泉が発掘されたことで少し有名になった湊星商店街。


 何故今更記事にするのかではなく、三年経てば色々仕様も変わってくるということで記事もリニューアルしなければいけないのだ。そのためには、現地取材をしなければいけないのだがどこから向かえばいいのか悩みどころ。


 ネットで記事にしようにも、結局は自分の足で向かわなくてはいけない手間がかかるため、有紀は昼休みからそのまま向かうことを上司に告げてから商店街の方へ行くことにした。



(AI検索も万能じゃないし、育成に力入れても結局情報プログラムは人間が作成した方が楽なとこ多いもんね?)



 ファミレスなどでAI搭載のアンドロイド型の運搬を導入しても遠隔操作がうまくいかないことで失敗がでることはよくある。それを修復してもまた、で結局は人間が席に運ぶこともざら。


 しかしながら、全部が全部人件費削減も兼ねてそちらに経費を傾けたこともあって止められないとも聞く。


 有紀のところだと、それがネット記事だったりアプリへの掲載だったりの電子書籍のことだ。小さいスマホなどの端末にDLすればいつだって見れるが、どこに保存していたかで迷うのも同じに感じる。


 などと、改めて振り返りながら商店街に向かえば、もふんとしたものが見えた。暑いのに宣伝用の着ぐるみかと思ったが、よく見るとそうではない。



『いらっしゃいませ~、ジェラート屋『シルキー』でーす』



 細身のロップイヤーとサモエドをMIXしたかのような獣型アンドロイドみたいな機械だ。言語は少し機械音が混じっていても流暢に話しているそれは、録音されたものではなく学習しているもの。


 表情豊か、滑らかな動作に口の開閉。すべてが、さっき思い出していたファミレスのAIなどと雲泥の差だ。かなりのローンを組んで購入して育成を重ねた芸術品とも言えるそれがあった。



「ん? ジェラート屋?」



 いつの間にか商店街のメインストリートに入っていたことと、店の売り物を思い出してスマホで軽く検索してみた。たしか、三年くらい前に開店した『温泉水』を扱うジェラート屋のことだった。簡単な口コミくらいはあるが、HPも特になくて記事になっているのはせいぜいSNSかブログくらいだった。



「……デザート代わりにあとで来るか」



 さすがに、いきなりアイスを食べるのも何だと思い。近くの喫茶店で適当に済ませてから再訪することに決めた。日替わりランチで適度に腹を満たし、いざ、と向かえば夏の陽射しが強いこともあってさらに列が増えているのに……少し、有紀は後悔しかけたが並ぶことを決めた。



『はいは~い。どうぞ、こちらへ~』



 プラカードを持っているAIもふもふは有紀が来ても笑顔を絶やさずに案内してくれている。人工毛だろうが、触ってみたくても子どもじゃないので我慢することにした。



「ここのジェラート、飽きないよね?」

「ね? ちょっと高いけど、暑い日には堪らないもん」



 少し前にいる女性客の声が聞こえ、耳を澄ませているとさっそく口コミサイトにあるようなのと同じ内容を口にしていた。


 温泉水使用と手作り重視なので値は張るがそれでも買いに来たいと思える味。


 原材料の値上がりは年々酷くなるのに、この列が出来るのだからそれはたしかに味の保証がされているのだろう。



(温泉水って珍しいだけじゃなく、味もたしかなのは売り上げが期待出来そう)



 腹はランチで満たされてはいるが、はやく食べたいと有紀は期待しながら一歩ずつ進むのが楽しくなっていた。そして、ようやく自分の番が来ると……ストッカーの中にある色とりどりのジェラートの数に、並んで正解だと思わずにいられなかった。


 たしかに、こんなにも種類があれば、少し高くても食べたくなるのは仕方がないだろう。



「いらっしゃいませ」



 そして、出迎えてくれた店員は男女ふたりだがビジュアルの良さに、思わず目の保養だと口にしそうになった。記者とはいえ、まだまだ管理職にもなっていないOLと同じような立場なので事前連絡もなしに取材は出来ないから……商店街に来たのも下見程度。


 なので、今回はあくまで『客』として注文することにした。だいたいのアイス屋と同じく、コーンとカップで器を選んで三種類までは大丈夫だった。



(全部温泉水を使っているの? 三つ以上食べたいけど、しょーがないかぁ)



 長く悩むのは後ろの客の迷惑になるので、コーンで三種類選ぶことにした。



「ブルーベリーパイと塩ミルク。あと、フォンダンショコラですね。670円です」

「バーコード決済で」

「はい。こちらにQRコードがあるので読み取りお願いします」



 大学生くらいの若い店員に対応してもらったので、言われた通りに会計を進めた。端末での決済が現金でなくても出来ることでの利点でもあるが、まだまだ需要が低いのでレジスターは普通にある。


 そして、出来上がった有紀だけのジェラートを渡されたとき、スプーンにはなにかのジェラートがついていた。



「試食に是非ひとつ。今回はカフェモカにしました」

「! ありがとうございます!」



 三種買ったのに、もうひとつおまけが。受け取ってからすぐに列から離れたのだが、ベンチが開いていたのでせっかくだしのんびりと食べようかと座ることにした。


 まずは、スプーンについているカフェモカ。とろんとした食感はジェラートの特徴だが、少し塩味を感じつつも甘みが強くて、香りが爽やか。温泉水を使用しているからこその、独特の味わいなのに素材を殺していない。


 素直に、美味しいと思える冷たいご褒美だった。



(え~? めっちゃ美味しい!! こっちも、こっちも!! なんで口コミだけでしかネットもにぎわってないのかな??)



 記事にするのを断っている可能性もあるだろうが、商店街の広報くらいに店名は載せているだろうに。あのAIを活用しているのなら、もっと稼がないとローンがうまくやりくり出来ないはず。それはそれで非常にもったいないと思うので、これは日を改めて取材許可をもらわなくてはと有紀は意気込んだ。


 後日、ラフな装いでない服装で再訪したところ、店長の我孫子は『考えてなかった』と口にしただけだったので取り越し苦労だったのを感じた有紀であった。

次回はまた明日〜

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