第14話 そもそものジェラートの作り方
「アイスとジェラートって、違うの?」
『それが違うんだよ、芽衣ちゃん』
GWも変わらずバイトに来てくれる芽衣は、サックに今更ながらの素朴な疑問を問いかけていた。
普通なら家族と友人とかと遊びに行くで休むかと思っていたのだが、今年は特にないという理由でシフトに入ってくれたのだ。正直言って、GWは湊星商店街への観光客が多いので国内外問わず客足が増えるから有難かった。こういう連休が続くときに限っては、ジェラートのストックも多めに用意するのでサックとふたりで捌くのも今まで大変だったから。
「そうだね。芽衣ちゃんはアイスとジェラートの食感の違いって考えたことあるかな?」
「……食感の違い?ですか?」
『そう! 店長の言う通り、食感に大きな違いがあるんだよ~』
はい、試作の。と、彼女が出勤する前に作っておいたカフェモカのカップを渡してやっていた。芽衣は素直に受け取り、刺さっていたスプーンでゆっくり味わうように食べ始めたが……意識して食べてみても、首を傾げるだけでわからないようだった。
「うーん? 美味しいけど、ここのは温泉水以外の特徴って??」
「正解は空気の含有率だね?」
「空気ですか?」
「市販のもだけど、アイスは50%に対してジェラートは30%が目安なんだ。本場のイタリアには劣るけど、うちもそこを目指している。少し、もっちりとした感じになるんだよ。トルコアイスよりは伸びないけど」
「ああ! あのすっごくもっちりした!!」
『僕は食べれないけど。そこ意識してもうひと口!』
「うん! ……あ、ほんとだ。滑らかなのはいつも通りだけど、少しとろんとしてる??」
「違いがわかるのはいいことだよ?」
もちろん、温泉水を使用していることもあって普通にない『ジェラート』を生み出していることには変わりない。
ソルトジェラートに似た、ほんのりとした塩気に加えて……後味に花の香りのようなものを感じるそれは、まさにここでしか作れないジェラート。
拓馬が最初に作ったジェラートではないが、地方ごとに特色のあるジェラートはそれはそれで美味しかった。取り寄せたのも美味しかったのだが、自分なりの味に辿りつくのに工夫を重ねに重ねて『現在のシルキー』が整ったのだ。
最初は心配していたAIの導入もあったが、レシピの維持もきちんと出来ているし改善なども育成プログラムを続けてきたことで、自ら手掛けるようになってきている。そこに、人間の少女をバイトに加えても文句を言わずに良好な関係を築くことが出来るようになったのも、拓馬としては嬉しい限りだった。
自分自身が、芽衣への必要以上の感情については、相変わらずもやもやしたままだったが。
(チキンとか関係なく……こんなおじさん手前の男なんて、見向きもされないだろうし)
今まで彼女がいなかったわけではないが、人付き合いが少し下手だったのかで自然消滅になることが多かった関係ばかりで。芽衣とは、上司と部下の関係としてはまあまあいいとしても、そこから一歩踏み出してしまうとどうなるかわからないのが怖かった。
最終的に、バイトを辞めるとか言われたらせっかく起動に乗ってきた店の運営が滞ってしまう。それだけは、絶対に阻止したかった。なら、と自分の感情を押し殺すくらいなんてことはない。
なのだが。
「店長~。このカフェモカ、コーヒーの味がしっかりしてるのにチョコの風味がいいアクセントしてますね!!」
作ったのはサックなのに、レシピは拓馬が案を出したからか……全開の笑顔を向けてくれるので照れが前に出て悶えそうなのを堪えるのに必死だった。
あと数年で、三十になる二十七の若造の恋心。ジェラートに負けているのは仕方なくても、もう少し前向きに考えてもいいのか悩むお年頃と思うのだった。
次回はまた明日〜




