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肥後の侍、江戸詰め候  作者: 水前寺鯉太郎


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再建】灰の中から立ち上がる。お糸殿の店、新装開店!

投稿者:肥後の侍


 江戸の街は強い。


 あの大火から数日。焼け焦げた匂いはまだ鼻につくが、通りには早くも槌音が響き渡っている。失ったものを嘆く暇があるなら、今日を生きるための小屋を建てろ。そんな江戸っ子たちの猛烈な気風に、私は圧倒されるばかりであった。


 お糸殿の店も、延焼は免れたものの、消火活動による浸水と煤汚れで、中はお世辞にも営業できる状態ではなかった。私は記録方の仕事を早々に切り上げ(もちろん、復興状況の調査という名目だ)、毎日泥まみれになって掃除と修繕に明け暮れた。


 「おい、侍。その腰の入れ方じゃ、日が暮れちまうぞ。もっとこう、グッと担げ!」


 半次郎殿が、どこから持ってきたのか大工道具を手に、テキパキと柱を補強していく。長屋の仲間たちも、代わる代わる手伝いに来てくれた。武士も浪人も職人も、この瞬間だけは身分など関係ない。ただ、一つの「居場所」を取り戻すために汗を流した。


 そして今日。


 煤を払い、磨き上げられたお糸殿の店が、ついに暖簾を再び掲げた。


 「お待たせしました! 本日、新装開店です!」


 お糸殿の晴れやかな声と共に、振る舞われたのが「お赤飯」である。


 蒸したての糯米もちごめの、艶やかな輝き。小豆(江戸では腹が割れないよう、ささげを用いることが多い)の赤い色が、真っ白な茶碗の中で見事に映えている。


 「さあ、お侍さん。一番に食べて」


 手渡された茶碗からは、香ばしい胡麻塩の香りが立ち上っている。


 一口、口に運ぶ。


 もっちり、とした力強い弾力。


 噛みしめるほどに、米の甘みが口の中に広がり、小豆の素朴な風味がそれを追いかける。振りかけられた胡麻塩の塩気が、そのすべての味を一つにまとめ上げ、私の胃袋へ、そして心へと、確かな「活力」を送り込んでくる。


 「……美味い。……本当に、おめでとうござる、お糸殿」


 「ありがとうございます。お侍さんや皆さんのおかげです」


 赤い色は、魔除けの色。


 このお赤飯を食べている間だけは、火事の恐怖も、将来への不安も、すべてが消えていくようであった。


 店先に集まった長屋の連中と、笑い合いながらお赤飯を頬張る。


 灰にまみれた昨日があったからこそ、今日のこの一杯が、何物にも代えがたい「祝いの味」となったのだ。


 国元のみんな。私は今日、江戸の再生の力を目の当たりにしました。


 ……お父上。私はこの街で、壊れてもまた作り直せばよいという、本当の強さを学んだ気がします。


【本日の出費】 〇文(お糸殿からの振る舞い)。代わりに、腕が上がらなくなるほど働いたので、良しといたそう。


【今日の一句】 焼け跡に 赤き彩り 明日あすを炊く


【今日のひとこと】 武士たるもの、復興の先頭に立つべし。……お糸殿の新しい暖簾が、秋の風に揺れる様は、この世で一番美しい景色にござる。

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