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肥後の侍、江戸詰め候  作者: 水前寺鯉太郎


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18/30

【スイーツ】甘味は、決して武士の恥ではない(断言)。

投稿者:肥後の侍


 お城から「風俗記録方」の命を受けて数日。私は今、大義名分を胸に江戸の街を堂々と歩いている。本日の任務は「江戸における庶民の嗜好品と、その流通調査」である。


 ……平たく言えば、甘味処の視察だ。


 武士たるもの、甘いものを公衆の面前で貪るのはいかがなものか、という風潮が世間にはある。だが、私はあえて声を大にして言いたい。甘味を愛することは、決して武士の恥ではない、と。むしろ、異郷の地で精神をすり減らす武士にこそ、糖分は不可欠なのだ。


 調査の第一歩として、私は評判の甘味処の暖簾をくぐった。


 注文したのは「大福餅」「三色団子」「羊羹」、そして濃いめのお茶である。机の上に並んだ色とりどりの甘味を前に、私の胸は記録方としての使命感(と、純粋な歓喜)で震えていた。


 まずは「大福餅」から調査を開始する。


 手に取ると、驚くほど柔らかく、ずっしりとした重みがある。薄い餅の皮を歯で割ると、中から小豆の粒が立った、見事な餡が顔を出した。


 もぐ、もぐ。


 美味い……! 餅の塩気と、餡の甘みが、口の中で完璧な調和ハーモニーを奏でている。


 すかさず、熱いお茶を一口。渋みが甘みを洗い流し、口の中を次の甘味のためにリセットしてくれる。この無限の連鎖こそが、江戸の甘味の真髄だ。


 続いて「三色団子」へと調査を進める。


 桜色、白、よもぎ。見た目にも鮮やかな団子は、もちもちとした歯ごたえがたまらない。よもぎの爽やかな苦味、桜のほんのりとした塩気が、私の鼻腔を春の風のように吹き抜けていく。


 そして仕上げは「羊羹」である。


 小刀で切り分けられたそれは、黒曜石のように美しく艶めいている。口に運ぶと、ねっとりとした濃厚な甘みが舌に絡みつき、そのまま溶けていく。これぞ、贅の極み。


 「……ふぅ。実に、有意義な調査であった」


 私は懐から矢立(筆記用具)を取り出し、真剣な顔つきで手帳に筆を走らせた。


 『大福餅の皮の厚み、餡の糖度、庶民の購買意欲、極めて高し。羊羹の艶、工芸品に匹敵す。』


 周囲の客は、眉間にシワを寄せて菓子を凝視し、猛然と紙に書き込んでいく武士(私)の姿に、少々引き気味であった。だが、気にしてはいられない。これは公務なのだから。


 国元のみんな。江戸の甘味は、武士の魂をも骨抜きにする恐ろしい代物です。


 ……明日も、調査(という名の至福の時間)に赴かねばなりません。


【本日の出費】 菓子三品とお茶。締めて十六文。公費(調査費)から落ちるため、私の財布は痛まない!無敵である。


【今日の一句】 筆置いて 頬張る団子 春の味


【今日のひとこと】 武士たるもの、任務には誠心誠意あたるべし。……ただ、少しお腹が出てきたような気がするのは、気のせいであろうか。

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