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肥後の侍、江戸詰め候  作者: 水前寺鯉太郎


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【共同開発】肥後の郷土料理を、江戸の小料理屋で出してみる。

投稿者:肥後の侍

 

 「お糸殿……。先日は、ありがとうございました」

 「もう、お侍さんったら。とっても楽しそうだったわ」

 いつも美味しい料理を食べさせてくれる。この恩を、どうにかして返したい。そう思った私は、懐から新聞紙(当時は瓦版などの更紙)に包んだ、青々とした「わけぎ(一文字)」を取り出した。

 「お糸殿。我が故郷の美味い食べ方を、一つお教えしたい」

 私は厨房を借り、腕をまくった。

 お教えしたのは、熊本の郷土料理「一文字のぐるぐる」である。

 作り方は至ってシンプル。わけぎをさっと茹で、冷水に取る。そして、白い根元の部分を軸にして、青い葉の部分を文字通り「ぐるぐる」と巻きつけていくのだ。本来はこれを酢味噌で頂く。

 「へえ、可愛い形! でも、江戸の人は普通の酢味噌だと、少し物足りないって言うかもしれないわね……」

 お糸殿は顎に手を当てて考え込むと、店の奥から「白練り胡麻」と「からし」を取り出した。

 「江戸の人は、少しパンチが効いている方が好きなの。白味噌に練り胡麻を混ぜて、そこに和からしを少し……。これでどうかしら?」

 二人でわけぎをぐるぐると巻き、お糸殿特製の「からし胡麻酢味噌」を添えてみる。

 さっそく、試食だ。

 シャキッ。

 わけぎの小気味よい歯ごたえとともに、ネギ特有の甘みが口いっぱいに広がる。そこへ、お糸殿の特製味噌が絡み合う。胡麻の濃厚なコクのあとに、からしのツーンとした刺激が追いかけてくる。

 「……美味い! お糸殿、これは、熊本のそれよりも美味いかもしれん!」

 「やったわ! これなら、うちの常連さんたちも喜んでくれるはずよ!」

 その夜、お糸殿の店で「肥後のぐるぐる・江戸前仕立て」として、この料理を黒板(品書き)に出してみた。

 すると、これが江戸っ子たちに大ウケしたのである。

 「おう、この緑のぐるぐる、見た目が粋じゃねえか!」「このからし味噌、酒が進むよ!」

 飛ぶように売れていく一文字を前に、お糸殿は私を見て、満面の笑みを浮かべた。

 「お侍さん、ありがとう。あなたのおかげで、今夜は大繁盛よ」

 忙しそうに立ち働く彼女の後ろ姿を見ながら、私は胸が温かくなるのを感じた。

 財布はまだ氷河期だが、私の心には、確かに春のような温かい風が吹き始めていた。

 国元のみんな。肥後の一文字が、江戸の夜を彩っています。

 ……ぐるぐるを巻くお糸殿の手が、とても綺麗でした。

【本日の出費】 わけぎ(一文字) 二文。売上に貢献したということで、今夜の飯代は「お糸殿のおごり」となった!感謝感激である。

【今日の一句】 春風や 君と巻きたる 青き糸

【今日のひとこと】 武士たるもの、己の知恵で他者を助けるべし。……それにしても、お糸殿の笑顔は、からしよりも胸にツーンと刺さるな。

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