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怪訝そうに僕の傘を見ている晃に、交換する? という意図で、傘を向けてみた。
「なんでだよ」
「赤レンジャーな晁には、よく似合う」
「……嫌だよ、濡れんだろが」
すげない。
気づくと雨が止んでいたので、二人とも傘を閉じた。
子どもたちの遊ぶ姿を何となく見ながら近況を報告しあって、大学の頃の話しを、少しだけした。しばらくすると、舞が駆け足で戻ってきた。
笑いながら長靴で水たまりを踏んで水を飛び散らせる舞は、天真爛漫天衣無縫。
それを見て晃は微笑んで、僕はなぜか誇らしい気持ちになった。
「あ! あきらおじちゃん、こんにちはー!」舞は嬉しそうに言う。
「お兄ちゃんって言えって言ってんだろが!!」
晁がマイの頭を軽くはたく。
「あはは、ごめんなさいあきらおじちゃん」
いつもの掛け合いだ。晁も、本当には怒っていないのだ。
晁が舞を真上に投げ上げて、キャッチした。普段の視点より二メートルほど高い世界を体感した舞は、本気で怯えていた。
……いや、少しは怒っているのかもしれない。
舞は小さな体にも関わらず、果敢に晁への攻撃を続ける。
幸せな絵。舞が喜んでいるのは何よりも嬉しいし、舞が晃を好きでいてくれることも、すごく嬉しい。
今も覚えている。
僕の外見だけを見て興味を持って近づいてくる女の子としか、会話がなかった高校時代。
僕の言葉がわからないのに、好きだと告白してくる子。精一杯拒否を意思表示しているのに、もっと話して僕を知りたいのだと言う子。僕から見てさえ面白いと思っていないとわかるのに、手を叩いて『面白―い』と笑う子。
そんな子たちさえ、ほとんど寄らなくなっていた高三の春。放課後、教室でいつも通り暇つぶしに本を読んで、いつものように、寂しさで泣きそうになりながら問題集を解いていた僕を、晃が救い出してくれた。
『教えてもらいたい問題があったんだけど……。後藤君、何かあったの?』
晃は大学に入ってからも、僕を色んなところに連れていってくれ、色んなものを見せてくれた。色んなことを話してくれた。
自分には絶対になれない、そんなヒーローが晃だ。晃と話していると誇り高い気持ちになれて、せめて晃の友人として恥ずかしくないように生きよう、と思えた。
雨が、また少し降ってきた。傘を開く。
「ご飯は?」マイとじゃれている晁に聞いてみる。
「あー、ちょっと時間が厳しいな。今度にしよう」
晃はマイのグルグルパンチを、頭を掴んで制しながら答える。
残念。うなずく。
「また、再来月には来るよ」
うなずく。
「その時には、一日多目に残れるように調整するわ」
それは嬉しい。うなずく。
「言っとくけど、そのうなずいてんのも何考えてんのかも人に伝わってねぇかんな」
そうかな? 首をかしげる。
「そうだって。伝わらない客には気ぃつけろよ」
大きめにうなずく。雨が、少し強くなってきた。
「よし。そんじゃあ、お互いそろそろ行くか」 「ん」
もう帰るのかあきら! と言った舞が再び宙を舞った。一回転し、晁が美しくキャッチ。拍手を送ってみたら、二人とも怒った。
……むむむ。
「「何がむむむだ!」」
声を揃える。仲がいい。
駆けよってきた舞を傘の下に入れ、バッグから取り出したタオルで拭いた。舞は、晁に向かってぶつぶつ言いながらも大人しく拭かれていた。ツインテールがしょげている。
「それじゃ」
拭き終わって、晁に向き直って言った。
「おう、じゃあな」
微笑んで、晁が応える。まだぶつぶつ言っている舞に目を向け、晁に背を向けた。
数歩歩いたところで、舞が立ち止まった。さよならを言わないことに、気が咎めたのだろう。良い子に育ったものだ。
「じゃあな! あきら!」
いきなり振り返って言った舞の頭を、晁が5メートル程の距離を一瞬で詰めてはたいた。そのまま乱暴に撫でながら、
「おう、じゃあな」と、万人を虜にする微笑を舞に向けた。
「……おう!!」
満面の笑顔を浮かべた舞を連れ、まだ少しだけ後ろ髪を引かれながら、家へと向かう。




