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セラエノって

「嘘だろおい……」


 草原、先ほどまでタツヤとセラエノが魔法の練習を行っていた場所をそう称するならば現在はなんと呼べばいいのだろうか。

 荒野、荒地、とにかく緑豊かという言葉は間違っても出てこないだろう。


「いやー派手にやりますね。

毎日やりますか? 」


「馬鹿を言うな……そんなの完全に魔王コースじゃねえか」


「勇者コースよりはいいんじゃないですか?

馬車馬の如くこき使われて適当に放り出されるよりは」


「どうせなら平和なコースがいいな……。

適当な街でのんびり暮らしたいわ」


 タツヤの理想にはこじんまりとした一軒家で毎日本を読みながら過ごしたいというものがある。

 一軒家が無理であっても本があれば満足、というのはタツヤの持論だがセラエノがあればそこは問題ないだろう。


 強いて言うならセラエノに乗っている情報はすべて魔法関係であり、その多くは冒涜的な内容である、という事くらいだろうか。

 少なくともご近所関係にヒビを入れるくらいは造作もない事だろう。


「それもいいですねえ……いっそ私と結婚でもしちゃいますか? 」


「本と結婚、というのはまあいいとしてセラエノとか……」


「本とは構わないって……さすがに私もドン引きしましたよ……」


 タツヤ自身職場では本と結婚したらいいなどと冗談めいたいいかたをされたことは何度もあるが、それはそれでありと考えているあたりダメ人間といえる。


「というか私じゃ不満ですか」


「少なくとも性格がな……。

いやノリの軽いところは割と好印象だけど世界を崩壊に導く自虐趣味は……」


「自虐趣味ってなんですか!

本を作ったのは世界のためを思ったからです!

そしたら何の手違いか世界を壊しちゃっただけです! 」


「そんなうっかりはいらん。

ドジっこにしてもどがすぎるだろう」


 練習もそっちのけですっかり話し込んでいるがその光景は異常としか言いようがない。

 そもそも本と会話している時点で異常そのものだが、その本からは触手が伸び喜怒哀楽を表現している光景は以上という言葉すら生ぬるい。


「それに自虐趣味は有りませんよ!

注射が痛気持ちいいとか、皮をはがす時の苦痛がたまらないなんて思ってませんでしたから! 」


「語るに落ちてるぞ」


「ぐ……せ、性格がちょっとあれなのは認めますがそれを差し引いても私の容貌はなかなかのものですからね」


「ちょっと……? 」


 タツヤの疑問はもっともだが、セラエノはその事を気にする様子もなく自分を売り込んでいく。

 その様子をタツヤは就職活動に必死になっている学生のように見ていた。


「今はほら、体がないんであれですけどそのうちあれですよ。

適当な生贄でも用意して自分の体を手に入れて見せますよ! 」


「魚人でいいか? 」


「そうそう水も滴るいい女……ってそんなわけないでしょう!

いやですよ!だったら本のほうがましですよ! 」


 セラエノがにょろにょろと動かしていた触手を逆立てて抗議する。

 さながら猫の尻尾のようだ。

 しかし冒涜的すぎるその外見は、見る者を恐怖のどん底におとしいれる存在と言っても過言ではない。


「まったく……それで、この後ですが拠点に移動しますか? 」


 セラエノは一息ついてから今後の予定について切り出した。

 タツヤとしては念願の魔法をつかえたことで満足しているため今後の希望は持ち合わせていない。


「拠点ってどこ」


「えーと……これです。

ちょっと手を当ててもらってもいいですか? 」


 そう言って触手で自分のページをぺらぺらとめくり、あるページをタツヤに向けた。

 そこにはセラエノにしては珍しく奇妙な図形や長ったらしい文章ではなく一つの絵が描かれていた。

 それは鬱蒼とした森の中にそびえたつ屋敷の絵だった。


 タツヤは言われるがままにその絵に触れた。


「うおっ!? 」


 すると触れた部分からセラエノに引きずり込まれてしまった。


「いやん、男の人を飲み込んじゃいました」


「お前いつか燃やしてやる! 」


 セラエノの声は引きずり込まれた後もタツヤに届いていたが、タツヤの叫びがセラエノに届いたのか、そればかりは彼女の身の知るところである。

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