セラエノ
「……」
「……」
「熱い熱い! 」
食人鬼とタツヤが見つめあう中セラエノは相変わらずあぶられている。
しかしその拷問は食人鬼が動いたことで、終了することとなった。
「……あ、どうもご丁寧に」
食人鬼は其の場でペコリとお辞儀をしてタツヤに視線を向けている。
それにつられてタツヤも頭を下げてしまったのは日本人の性というやつだろうか。
「おい、どーすんだよこれ」
「私を通して使った召喚はオプションで使役の効果がありますからね。
いきなり襲ってくることはないと思いますよ、たぶん」
「そういうことは先に言え、というか召喚してどうするんだよ」
「魔法の練習ですよ、まぁ今回は私のほうで加減しましたが次からはタツヤさんに加減を覚えてもらわないといけませんね。
あぁやり方は手取り足取り教えるから安心してください」
「お前はどうやって手足をとるつもりだ」
「え?
この冒涜的かつ混沌とした禍々しい名状しがたい触手で」
タツヤの言葉に、セラエノは表紙からにゅるりと黒い触手をはやしてみせた。
それは見る者に嫌悪感を与えるものだった。
「よしそれしまえ、つーかほんとどうするんだよ。
食人鬼さんめっちゃ待ってるぞ」
タツヤは触手をつかんで無理やり押し込んでから食人鬼に視線を向けた。
そこには直立不動のまま、見様によってはゴムのような弾力を感じさせる皮膚のせいもあり巨大な人形のようにも見えなくない。
「あぁそうでしたね、ではこう言ってください。
【食人鬼の送還】」
「【食人鬼の送還】……いやマジで何のために読んだんだこれ」
「だから練習ですって」
食人鬼は足の先から地面に沈み始め、手を振りながら消えてしまった。
その光景にタツヤも思わず手を振りかえしたが、この本は本格的に燃やすべきではないだろうかと思い始めていた。
「それじゃ、人目につかないこのあたりでもう少し魔法の練習をしてから拠点に向かいましょうか」
「拠点? 」
「はい、我々が行動するための拠点です。
あ、そういえばあなたを派遣した神様からメッセージを預かってますよ」
「あれ神様だったんだ」
「神様をあれ扱いですか。
言ってましたよ、近年の若造は異世界だチートだと喜びやがるのにあの小僧は始終精神的にも無反応だったと」
タツヤはその時の光景を思い返す。
言われてみれば確かに無反応だったと思う、けれどなんで俺あの時あんなに冷静だったんだろうか、と。
一瞬考え込みそうになったが、わからないことを無理に考えても意味がないとすぐに気持ちを切り替えた。
「それじゃ1ページ目を開いてください」
「ん」
タツヤはセラエノに促されるままに1ページ目を開く。
最初は白紙だったページにじわじわと文字が浮かび上がってきた。
『やあタツヤ君、君がこのメッセージを見るのはいつになっているだろうか。
できるならば初日のうちに見ていてくれたらうれしいのだが、セラエノがそんなだから期待はしていないさ。
さて本題だ、セラエノ、一応封印している魂は女性なんで彼女と呼んでおこう。
彼女は無期限の魂封印という刑罰を受けているので君が所持している間にただの本になってしまうという心配はいらないという事が一点。
それからこの世界は基本的に崩壊する可能性があるという事を覚えていてほしい。
それは主に人為的な理由であり、君がそこにいる理由でもある。
正直セラエノを出すのは過剰戦力だが、どうにもその世界は不届きものが多くて度々滅びの危機を迎えているんだ。
だからもう君たちが世界を滅ぼす可能性というのを前提にしてみようかなと会議で決まっちゃったんだ。
だから君たちが世界を壊すも自由、守るも自由、好き勝手生きていざというときだけ英雄になるも自由、ひたすら魔王の如く好き勝手に生きるのも自由。
何ならハーレム作ってもいいよ、そこのセラエノはハーレムを相手取るときには有効だろうからね。
あとセラエノは痛覚は有るけど基本的に壊れないからサンドバッグの代わりにしてもいいと思うよ。
じゃあがんばってね。』
「……おい、なんかやたらなれなれしいというかフランクなんだが。
最初にあった時はもっと恭しい感じだったぞ」
「あぁあれ猫かぶってるだけです。
というか神様なんて人間と変わらないですよ。
パソコンの外からゲーム画面見ている人と、ゲーム画面の中のNPCくらいの違いです」
「それは結構差があるんじゃ……」
「そうでもないですよ、向こうはこっちを一方的に観察できるけど直接の手出しはできない。
代わりにこちらは一切の手出しも観察もできない。
着替えをのぞかれたりお風呂のぞかれたりするくらいです」
それは十分に被害がある、と言いたかったのをぐっとこらえてタツヤは手に持った本をまじまじと眺める。
表紙に使われているのは人の皮だと聞いた。
しかし改めてページをめくってみるとそれら一枚一枚が人の皮でできていることがわかる。
更にインクはよく見てみると通常の者と違う。
意を決して鼻を近づけてみるとほのかに鉄の香りがしたことから、血をインク代わりに使ったのだとタツヤは結論を出した。
「乙女の柔肌の匂いを嗅ぐとはいい趣味してますね」
セラエノの妄言は無視して本全体を確認してみる。
「今度は視姦ですか?
いい趣味です、ぐっじょぶです」
一瞬セラエノを地面にたたきつけたくなったのをこらえたタツヤは、セラエノの全体を見て猟奇的な作品であるという事は十分に理解できた。
しかしその材料については不明な点が多かったので彼女に聞いてみることにした。




