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魔法

「魔道書だっけか……」


 青年は地面に直接置かれていた本を手に取る。

 その瞬間、何か違和感を覚えた。

 過去に鰐皮の本や羊皮紙の本を読んだことがある。

 しかし普通の本ともそれらとも違う手触りだった。


「これもテンプレでいうなら人の皮ってところか……」


「だーいせーいかーい」


 青年はどこからともなく聞こえてきた声に驚きを隠せず周囲を見渡す。

 しかし自分以外に人影は見つからない。


「どこ見てるんですか、こっちですよ」


 青年は声の導くままに視線をさまよわせる。

 こっち、こっちという声をたどるとそこには手元に行き着いた。


「まさか……」


「そうです、私が魔道書です」


 声の主は魔道書そのものだった。

 

「はじめまして、私はセラエノ、あらゆる魔道書の行き着いた先。

先人と先神の知識の集大成。

それが私セラエノです! 」


 セラエノ、それは物語の中では度々目にした名前だ。

 クトゥルフ神話という物語に登場する魔道書、もしくは図書館の名前だったと青年は記憶している。

 その知識からいけば目の前にある本は、魔道書である『セラエノ断書』ということだろうか。

 青年がそう考えた瞬間だった。


「あぁ、私は断書ではなく図書館のほうです。

心を読むくらいは朝飯前ですが、私の本業は読まれることなんですよね」


 青年の考えはあっさり読み取られ、訂正をされた。

 セラエノ図書館、世界中のあらゆる書物が保管されているという場所でそれは地球からはるか遠くに存在するという。

 作中ではとある博士が神との対決に備えて図書館に引きこもっていたとされている。

 

「さて、改めて自己紹介と行きましょう。

私はあらゆる書物を保管する者、世界最大の書庫であるセラエノ図書館です」


「あぁ、おれは陸奥川タツヤ。

多分知っているだろうけれど罪人らしいよ」


「えぇ、殺人1件と膨大な未練と家族最後の願いを叶えられなかったというつみですね。

珍しいですねぇ、情報だけ聞けば大罪人ですが穏やかな魔力ですよ」


 殺人、という言葉を聞いた瞬間青年ことタツヤはピクリと肩を震わせたものの後に続いた魔力という言葉を聞いて気を持ち直した。

 魔力、ゲームなんかではMPと称されたものだ。

 中には魔法を使った攻撃のダメージに反映されるというものもあったが、今回は魔法を打つためのエネルギーと考えればよいだろう。


「魔法が使えるの? 」


「あなたの前にあるのがだれだと思っているんですか。

私がいればどんな魔法でも魔力があれば使えちゃいますよ」


「どんな魔法でも……? 」


「どんな魔法でも、です。

まぁ使い勝手の善し悪しは有りますけれど。

何なら使ってみますか? 」


 セラエノの言葉にタツヤの頬が緩む。

 身内がいなくなった後に物語にのめりこんで以来魔法というのはある種の憧れだった。

 その夢が叶う、というのはなかなかどうしてうれしいものがある。


「ぜひ! 」


「じゃあ私を持ち上げて、189ページを開いてこう言ってください。

食人鬼グールの召喚】」


「【食人鬼の召喚】!

っておいこれって! 」


 タツヤの叫びもむなしく、彼の背後でズルリズルリという音が聞こえる。

 意を決してそちらを振り返った彼の目に飛び込んできたのは、腐敗した肉体を引きずりながらもタツヤに手を伸ばす半人半獣の化け物であった。

 その匂いは周囲のすべての生物に忌避感を感じさせるものであり深淵の淵に立たされたような、そんな眩惑すら覚えた。

 タツヤはその獣臭さを放つ存在を見据えてから、手に持っていたセラエノに火をつけようとポケットをあさりライターを探した。

 幸いというべきだろうか。

 服装は事故にあった時の作業着のままだったため先輩とのだんらんの際に使用するライターが入っていた。


「あっつ!燃える燃える!

手じゃないのに真っ赤に燃えちゃいます! 」


 セラエノの悲鳴はタツヤの耳には入らなかったが、食人鬼がタツヤ達に目を向けるには十分なものだった。

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