出発
「……というわけであなたはお亡くなりになりました」
「あ~そういうことか……」
青年は、闇の中で聞こえてきた声にぽつりとつぶやいた。
先ほどまで彼の眼には自分が生まれてから死ぬまでの、第三者視点での映像が映し出されていた。
「それでですね、あなたは家族からの『どうか幸せになってほしい』という最大の願いを無視したことになってしまっています。
ようは未練が多すぎたということですね。
これは解消しなければ転生はできない規則になっています」
「それで地獄に落とされたわけですね? 」
「いえ、地獄というのは存在しません。
しいて言うならあなたがいた地球という世界は一つの地獄ととらえてくださっても結構です」
闇から姿こそ見えないものの声だけが響き渡る。
それはトンネルの内部で発した言葉のように反響してどこから発せられたものかはわからない。
「あの世界は、地獄というよりは通り道です。
苦難を知るための道の一つが地球です。
そしてこれから罪を償い未練を消化して初めて転生という形で『産まれる』事ができるのです」
「よくわからない……」
「わからなくて当然です。
そういう話とだけ考えてください」
そう言われてしまえばそれまでなので、青年は頷くしかなかった。
「それで、地獄じゃなければ俺が罪を償うためにはどうしたらいいんですか? 」
「調停官の仕事をしてもらいます。
早い話が取り締まりですね。
世界というのは実はシャボン玉のように脆く壊れやすいのですが、外部からの衝撃は神の力で防ぐことはできるのです。
ただし内側からの力を防ぐ手立てはないので調停官を送り込んで衝撃を抑えるのですよ」
闇からの声に青年は腕を組んで考え込む。
調停官、とは言ったもののその仕事に関しては警察のほうが近いようだ。
要は事件が起こる前につぶすか、事件が起こってから対処するかという仕事をしなければならないらしい。
「その役割を俺が?
……それはつまり最近はやりのマンガみたいな? 」
「そうですね、あなた方が好む言葉でいうと天麩羅でしょうか」
おそらく声の主はテンプレと言いたかったのだろう。
けれどそれを青年は気にすることなく話を進める。
「それで、力をもらえるんですね」
「正確には貸し与えるとでも言っておきましょうか。
今回は魔道書とそれを扱う力を貸し与えます」
「今回は? 」
「世界は無数にありますからね。
その中でも神の加護の必要な世界に神の使いとして調停官を派遣して世界の崩壊を防ぎます。
地球でも似たようなことは有ったはずですよ」
そう言われて青年は思い返す。
紀元の始まりなどは確かにその話に当てはまる。
されに言えば時折出現した強大な力を持った支配者や英雄なんかもそれに当てはまるかもしれない。
「ちなみに今回貸し与える魔道書ですが、いわくつきの逸品ですのでお気をつけて」
「はっ? 」
青年が驚きあげた声に、闇からの声は一切答えることはなかった。
そして、青年はふと周囲の闇が薄くなっていることに気付いた。
それはとどまることなく薄れていき、最後に周囲は闇はなく、見渡す限りの草原が広がっているばかりだった。
「まじかよ……ここまでテンプレか……」
ふと思い立ち周囲を見渡してあるものを見つける。
それは、青年が貸し与えられた唯一の装備品である一冊の本だった。




