みにくい竜の子、孤独な子。2
感想ありがとうございます。
それからいつものようにフェリさんと絵本を読んで。お昼にローストビーフたっぷりのサンドイッチを食べて。
いざ、お庭に出発である!
「ほんとうにいいお天気ですねえ。ようやくぽかぽかしてきて過ごしやすくなりました」
一緒にお散歩してくれるのは、わたしのそばにいてくれることが多いメイドのメイルちゃんである。おそらく同い年だと思うのだけど、なにせ幼児だと思われているので妹のように可愛がってもらっている。真っ白いふわふわの髪が可愛らしい女の子だ。
「旦那さまも明後日にはお戻りになりますし、大丈夫ですからね。あんなに名残惜しそうにお出かけになる旦那さまを見たのははじめて!きっとすぐに帰っていらっしゃいますよ。今回はオーハンだとおっしゃってらしたから、きっとお土産も買ってきてくださいます。楽しみですねえ。最近、オーハンで流行ってるお菓子かしら」
白目と区別がつかないくらいの薄墨の瞳がはじめのうちは実は怖かったのだけれど、メイルちゃんと過ごすうちにそんなことは気にならなくなった。メイルちゃんはとーってもおしゃべりで、わたしはそんなところも含めてメイルちゃんが大好きである。なにせメイルちゃんはとっても優しくて、本当のお姉さんみたいなのである。
わたしが寒いなと手を合わせるとさっと上着をかけてくれて、トイレへ行こうかと椅子から滑り下りるとなにも言わずとも扉を開けて待っていてくれる。リーシャ様、お好きでしょう?とクッキーをおやつにくれたこともある。くるみがザクザク入ったそれはこちらに来てからわたしの密かなお気に入りだった。まあ、密かなというか、誰にも伝える術がなかったともいえるけど。
こうしてたくさんおしゃべりをしてくれるのも、わたしを退屈させまいというメイルちゃんの気遣いだ。無言の人と一緒にいるのはとっても疲れることだ。たしかに話の内容は半分も分からないけれど、メイルちゃんもそれは承知の上で、できる限り簡単な単語で、そしてゆっくりとお話してくれる。メイルちゃんともっとおしゃべりできたら素敵だろうなあといつも思う。
「あ、ほらリーシャ様、グスクの花ですよ。これから盛りの花です」
「ぐすく」
メイルちゃんが指差したのはシロツメクサみたいなまあるい花である。シロツメクサとちがうのはやわらかい桃色をしていることと、朝顔くらいの大きさなことだろうか。この前街へ出かけたときに、バルが差し出してくれた花である。
「魔除けの花としてどの家の庭にも植えられてます。小さいときに花冠を作って遊びました。これとは色違いでオレンジ色のもあって合わせて編むととっても可愛いんです。今度旦那様にお願いして花冠を作りましょうか」
「ぐすく、きれい」
「そうですねえ。可愛らしい花ですねえ。わたしこの花が好きです」
しゃがみこんでグスクの花を覗きこむわたしにメイルちゃんは微笑みながら言う。あ、今のは分かったぞ!
「メイル、ぐすく、すき?」
「はい、好きです」
ニコニコと頷かれてわたしの聞き取りがあっていたことが分かる。そっかこのお花が好きなのか。誰かの好きなものが知れると嬉しいものだ。
「リーシャ様、お寒いですか?少し顔色が、」
「おーいたいた!リーシャ!元気か!」
メイルちゃんのお話を遮った聞き覚えのある朗らかな声に振り返るといつぞやのビズーガさんがにっかり笑って立っていた。
「ごきげんよう、ビズーガ!」
ぺこりと頭を下げるメイルちゃんの隣で、こんにちは、と覚えたての挨拶をするとビズーガさんは面食らったように目を大きくして、ピカピカの笑顔をさらに輝かせた。
「ずいぶん上品な挨拶を知ってるなあ!お勉強の成果か?」
「おべんきょ?がんばる、ます!」
勉強はとてもがんばっている!と胸を張れば、わたしの隣にしゃがみ込んで偉い偉いと頭を撫でてくれる。
ビズーガさんもわたしのことを妹だと思っている節がある。下に弟か妹がいるのだろうか、対応が慣れている。ガシガシと頭を撫でられるままにしながら思う。あ、まってまって、あんまり揺らされると目が回ってしまう。
「ヴィズーガ様、そのへんで……リーシャ様は小さいんですから」
「わりいわりい。いやあ、ヴァルネルがいないから元気にしてるかと思って様子を見に来たが思ったより元気そうで安心した」
ニコニコ笑いかけられ、半分も理解できないままにわたしもニコニコしておく。元気かどうか聞かれているのか?元気だ!とても!あえて言うならお昼のローストビーフサンドがボリューミーすぎてちょっと気持ち悪い!
「リーシャ、菓子を持ってきたんだ、一緒に食おうぜ」
「かし?」
「あー、お菓子だ。甘いやつ。好きか?」
かし、すなわちお菓子か!どうやら手土産を持って遊びにきてくれたらしい。失礼ながらがさつそうに見えるのに、気の利く男である。でも残念ながらバルは出張でいないから遊べないと思う。
「バル、いない。し、す、し、しっちょー?」
「しっちょー?」
「出張ですね、リーシャ様」
うまく発音できなかった単語をメイルちゃんが言い直してくれて大きく頷く。それそれ!
「バル、ビズーガ、ともだち。バル、いない。あそぶ、ない」
友達のバルは不在だから遊べないよと拙いながらも伝えると、知ってる知ってる!とビズーガさんは笑った。
「今日はヴァルネルと遊びに来たわけじゃねーよ!おまえに会いにきたの」
「おまえ?だれ?」
「あー、リーシャに会いに来た」
「わたし?」
え、え?わたしに会いにきてくれたの?ビズーガさんが?わざわざ?
こちらに当然知り合いなどいないからそんなことは、初めてでぴょんと立ち上がる。ありがとう、とても嬉しい!と伝えようとして気持ち悪さに再びしゃがみこんだ。
「リーシャ様!?」
慌てたメイルちゃんの声を聞きながら、
「うえっ」
吐き気に耐えられず、おろろろろと吐いた。うう、気持ち悪い。
「おおう、どうしたリーシャ。具合悪かったのか?」
「リーシャ様、大丈夫ですか?すぐお水持ってきますからね」
ビズーガさんの大きな手に背中をさすられながら、おろろろと吐いて思うことは、綺麗なお庭に吐いてしまってバルに申し訳ないなということだった。
ヴィズーガさんは、下に年の離れた弟がいます。




