5:ブービートラップ
翌日の深夜に近い時刻。俺はリーゼにコールで呼び出された。
待ち合わせ場所は東の広場だ。何のための呼び出しかは、言葉を濁すだけで教えてくれなかった。
まあ、相手も年頃の女の子だからな。口にしにくいこともあるだろう。
【カサンドラ・エクス】がPKに睨みを効かせているせいで、昨日今日と街を出歩く人の姿が増えたが、さすがに深夜ともなると人の足音は聞こえない。
広場へと向かう途中、俺の耳に再びコール音が鳴り響いた。またリーゼからだろうかと思って、コールに応じると聞こえてきたのは男の声だった。
『広場へは行かないほうがいいぜ』
「誰だアンタ?」
『今は顔を変えて、レオンと名乗ってるらしいな。うちのギルドはアンタに借りがある。いつまで経っても取立てにこないから、そろそろ返しておこうと思ってね』
「その声、イーガンか?」
『ああ、久しぶりだな』
コールしてきたのは、俺が以前共闘したギルド【garden of eden】のマスター、イーガンだった。
「なにかマズイことがあるのか?」
『カサンドラの連中がPK狩りをしてるのは知ってるな。今夜の獲物はアンタだそうだ』
「確かな情報か?」
『ああ、タレコミがあった。アンタは売られたんだよ」
歩きながら周囲に目を這わせる。一見すると路上に人の姿はなく、マップレーダーの反応もない。だが、相手もレーダーに引っかかるようなヘマは犯さないだろう。
魔術師ギルドが敵に回ったというなら、連中の隠蔽スキルは低い。マップ外から囲い込んで追い詰めるつもりだろう。このまま広場まで向かうのはマズイ。
情報の真贋はまだわからないが、襲撃があるというのなら動いてみて確かめるしかない。
口のなかで小さくスキルを唱える。
狙撃ポイントをずらすためには、相手に照準させる時間を与えないのがベストだ。
【ダッシュ】による超加速で、民家の壁を一気に駆け上がる。身体能力はLv1の頃と比べて大幅に上がっている。
屋根を飛び越え、待ち合わせ場所とは正反対の方向へ一直線に疾駆する。
前触れのない動きに咄嗟に対応しきれなかった人影が、マップレーダーの光点となって姿を現す。素早く目を向け、狭い路地を挟んだ向こう側の屋根に魔術師二名の姿を視認する。スキル発動から、ここまでに要した時間は0.5秒にも満たない。
連中は慌てたように後ろへ下がろうとするが、屋根の上に魔術師の逃げ場はない。機動力に勝る魔剣士に追われた時点で奴らの命運は決まったも同然だ。
ダッシュの勢いそのままに、相手のみぞおちに膝蹴りを叩き込み、屋根から突き落とす。落下ダメージを喰らって生き残るかどうか微妙なところだ。しかし、敵は多勢だ。止めを刺しに行く余裕はない。残ったもう一方の魔術師を【スラッシュ】で牽制し、再び跳躍する。
詠唱を終えた魔術師たちが攻勢に転じる。
この先、向こうは好き放題に撃ってくるだろうが、こちらの弾数は少ない。それまでに囲いを突破できるかどうかが生死の分かれ目だ。
レーダーが示す敵の数は今のところ4つ。だが、レーダーの外にも多くの敵が潜んでいる。何もないはずのところから、いきなり攻撃が飛んでくる。
攻撃魔法の多くは、ある程度までは自由にカスタマイズできる。
威力、射程、効果範囲、弾道コースなど、杖にインプットさせることで、そのときの作戦や個人の戦闘スタイルに合わせて変えられる。奴らはスナイパー気取りで範囲を絞って射程を延長させているようだ。
探知不能な距離からの遠隔狙撃。しかし、その射程はせいぜい4、50メートルが限界のはずだ。
俺は市街建造物の高低差を利用した三次元駆動で射線をかわし、向こうは跳躍の際の落下地点を読んで魔法を撃ってくる。
魔術師と魔剣士の殺し合いは距離の奪い合いだ。互い攻撃に特化したジョブであるが故に、一撃で決まるにしても、こちらは距離を詰めねばならず、向こうは詠唱時間を稼がなければならない。
連中は狡猾だ。夜になると炎系魔法を控え、見えにくい風氷系の魔法を飛ばしてくる。
PKKをしまくったおかげで、人間狩りにも慣れている。囲い込んでの対人戦闘はお得意のようだ。
囲みを脱したと思ったら、すぐにまた前方から魔法が飛んでくる。射線から敵のいる方角は読めるが、どれくらいの距離にいるのか、予測がつかない。
死角から飛んできた氷槍が狙いを外し、足元で砕け散る。夜で見えにくいのは向こうも同じらしい。恐らく、俺の姿を認識できない距離にいるはずだ。だったら、こちらから近づく必要はない。
包囲網のイメージを脳裏に構築し、街の地形と照合する。
逃走ルートを頭のなかに描き、屋根から飛び降りて、狭い路地に入る。
向こうからすれば建物が邪魔になって入射角が得られず、魔法を撃ちにくくなるはずだ。狙撃位置を移動すれば、再び狙われるようになるだろうが、それまでは安全に走れる。
俺は激しく乱れた呼吸を整える間も惜しみ、肩幅ほどの路地をひたすら走り続ける。
猫に追われるネズミの気分だ。
連中が間抜けな猫であることを祈ろう。




