第5話 最後の一枚
弥生は悩んでいた。
明日は、房総大学三科目特別選抜の入試である。
(絶対に合格してほしいわ!)
あのD判定だった紫苑くんが、今ではA判定を取れるまでになったのだ。
家庭教師として、こんなに嬉しいことはない。
(でも、合格したら……)
弥生は、自分が交わした約束を思い出した。
(さ、最後の一枚まで……!)
「ううっ……!」
思わず頭を抱える。
(合格してほしい! でも、合格されたら……!)
(ど、どうしたらいいのよ! 私っ!)
しばらく悩んでいた弥生だったが、やがて勢いよく顔を上げた。
(だ、ダメよ! 雑念は捨てなきゃ!)
(最後まで全力で応援するんだから!)
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入試当日。
国立房総大学の正門前には、大勢の受験生が集まっていた。
「紫苑くん!」
「先生!」
弥生が、わざわざ見送りに来てくれたのだった。
「忘れ物はない? 受験票は?」
「大丈夫!」
「筆記用具は? 時計は?」
「ちゃんと持ってるよ!」
「そう……」
弥生は紫苑の手をぎゅっと握った。
「紫苑くんなら大丈夫! 応援してるわ!」
「…………」
紫苑は、弥生の顔を見つめた。
そして、力強くうなずいた。
「うん!」
「頑張ってね!」
紫苑はもう一度うなずくと、正門へと歩き出した。
房総大学の三科目特別選抜。
文系学部全体で、合格できるのはわずか50人。
その狭き門を突破するため、英語、数学、国語の三科目に、持てる力のすべてを注いできた。
(……やれる! 絶対に合格してやる!)
紫苑は最後の戦場となる教室へ入り、自分の席に着いた。
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それから二週間後。
「神無月先生! 明日はぜひ、うちにいらしてください!」
紫苑の母親から電話がかかってきた。
明日は、いよいよ房総大学の合格発表である。
両親は仕事の時間を調整して、息子の合格発表に立ち会うという。
ぜひ、弥生にも同席してほしいとのことだった。
弥生も予定が空いていたので、喜んで引き受けた。
そして、翌朝。
「いやあ、神無月さん! よくいらっしゃいました!」
如月家の玄関で、紫苑の父親が弥生を出迎えた。
「神無月さんを先生にして大正解でしたな! まさか紫苑の成績が、ここまで伸びるとは!」
「い、いえ! 紫苑くんが頑張ったんです!」
「いやいや、ご謙遜を!」
父親は、不動産鑑定士の資格を持つ不動産会社の社長である。
行政書士で取締役の妻とともに、会社を大きくしてきた人物だった。
「今日は、11時まで仕事を空けてきましたぞ! 何しろ息子の一大事ですからな!」
「あなたったら、昨日からずっとそわそわしているんですよ」
母親が笑った。
「はっはっは! そういうお前だって、昨夜は眠れなかったじゃないか!」
「もう、あなたったら!」
弥生もつられて笑った。
やがて、午前10時30分。
「じゃあ、開くよ」
紫苑が、居間のパソコンで合格発表のページを開いた。
全員が画面をのぞき込む。
4989
「……あった!」
「えっ!?」
「4989番! 紫苑の番号じゃない!」
「や、やったああああっ!」
「よくやった! 紫苑!」
父親は息子を力いっぱい抱きしめた。
「あなた! 本当に受かったのよ!」
「ああ! やったぞ! 母さん!」
弥生も、思わず目頭が熱くなった。
あの頼りなかった紫苑くんが、本当に房総大学に合格したのだ。
「神無月さん! ありがとうございます! もちろん、特別手当は弾みますぞ!」
「そ、そんな! 私は家庭教師として当然のことを……」
そのときだった。
プルルルル!
父親のスマートフォンが鳴った。
「ん? ……何? 高階さんの土地取引の件か?」
父親の表情が一変した。
「なにっ!? 先方が11時まで待てないだと? ……分かった! わしが行く!」
電話を切ると、妻を振り返った。
「母さん! 高階さんの件だ! 一緒に来てくれ!」
「あら、大変! すぐ準備するわ!」
母親は慣れた様子で立ち上がった。
「いやあ、神無月さん! 申し訳ありませんな! せっかくのお祝いなのに!」
「いえいえ! お仕事ですから!」
「紫苑! 先生にはちゃんとお礼を申し上げるんだぞ!」
「うん!」
「では、神無月さん! また改めて!」
両親は慌ただしく出かけていった。
パタン。
居間に静けさが戻った。
「…………」
「…………」
紫苑が、ゆっくりと弥生を振り返る。
にやり。
弥生の背筋に冷たいものが走った。
「ふっふっふ。先生、約束は守ってもらうよ!」
「くっ……仕方ないわね……」
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紫苑の勉強部屋。
弥生の指先がブラウスのボタンにかかる。
一つ、また一つと外していくたび、白い肌が露わになっていく。
ブラの谷間が深く割れ、豊かな胸が重みでわずかに揺れた。
ブラウスを脱ぎ捨てると、
次にスカートのファスナーを下ろした。
スカートが床に落ち、残されたのは薄いレースのブラとパンツだけ。
両腕を後ろに回してブラのホックを外した。
カチッ、という音と同時に、大きな胸が解放されて大きく弾む。
ブラを床に落とす。
「や、やっぱり、でかい」
「も、もお~~~、こ、これも脱がなきゃいけないのよね・・・・」
次にパンツの両脇に指をかける。
ゆっくりと下ろす。
黒いレースが太腿を滑り落ち、股間が露わになった。
「す、すごい、はじめて見た!も、もっと見せて!」
弥生はかすかに脚を開くと、紫苑の視線を受け入れて、じっと立っていた。
「は、恥ずかしい………ここは、いままで誰にも見せたことがなかったの……」
「えっ……?先生って……」
紫苑は、もっと見ていたい気持ちをぐっとこらえた。
そして、椅子に掛かっていたカーディガンを手に取った。
以前、弥生からもらった、あのカーディガンである。
「……先生」
紫苑は、それを弥生の肩にそっと掛けてあげた。
「……ありがとう」
弥生は小さく微笑んだ。
「ねえ、先生……」
「何?」
「……今度は、どんな試験に受かったら……先生と、もっと一緒にいられるのかな……」
「そうねえ……」
弥生は少し考えた。
「司法書士試験なんてどうかしら? 私も受けたけど、ダメだったのよ」
「司法書士?」
「ええ! とっても難しい試験なのよ!」
「……分かった!」
紫苑は顔を上げた。
「じゃあ、司法書士試験に合格したら、先生をもらいに来てもいい?」
「はいはい。ちゃんと受かって、就職できたらね!」
「うん! 頑張るよ!」
「ふふっ。頑張ってね!」
やがて身支度を整えた弥生は、帰り支度を始めた。
「先生……」
「なあに?」
「この一年、本当にありがとう」
「…………」
弥生は、にっこりと微笑んだ。
「紫苑くんも、本当によく頑張ったわ!」
そして、少しだけ寂しそうに付け加えた。
「四月からは、房総大学のキャンパスで会いましょう!」
「うん!」
名残惜しそうな紫苑に見送られ、弥生は如月邸を後にした。
数日後。
如月家から、驚くほどの特別手当が振り込まれていた。
「……もう! 本当に義理堅いお父様ねえ!」
弥生は通帳を見ながら、思わず笑ってしまった。




