第4話 鉄壁のA判定
弥生先生の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
初めて見た、若い女性の白く美しい肌。
あれほどの衝撃を受けたのは、生まれて初めてだった。
(次は絶対にA判定を取る!)
紫苑は問題集に向かった。
(そして、先生の胸サイズも、そしてもっとすごい場所も…ぜんぶ確かめてやる!)
(すべては、弥生先生をすっぽんぽんにするため!)
本来の目的は、国立房総大学への合格である。
しかし、紫苑の頭の中では、いつの間にか目的と手段がすっかり入れ替わっていた。
そして、そこからが大変だった。
紫苑の勉強量と集中力は、ますます凄まじいものになった。
弥生が用意した大量の宿題も、難しい問題集も、片っ端から片づけていく。
下着姿での授業も、すっかり恒例になっていた。
そのおかげもあって、紫苑の成績はさらに上昇した。
ところが――。
「……またB+かあ」
紫苑は、模試の結果を見て肩を落とした。
「うーん……惜しいわねえ」
弥生も成績表を見つめた。
三科目の得点は、すでに相当な水準に達している。
それでも、文系全学部合わせて50人しか合格できない特別選抜のA判定は、容易に手が届くものではなかった。
「先生……僕、もうこれ以上伸びないのかなあ……」
「そんなことないわよ!」
弥生は紫苑の手を取った。
「あなた、本当によく頑張っているじゃない! 私だって、受験生のときはB判定がやっとだったのよ!」
「でも……」
「大丈夫! まだ時間はあるわ!」
弥生は、紫苑の手をきゅっと握った。
「最後まで諦めちゃダメよ。私も全力で応援するから!」
「……先生」
紫苑は顔を上げた。
「うん! 頑張るよ!」
「ええ! その意気よ!」
本番前、最後の模試の日がやってきた。
薄い冬の日差しの中、紫苑は冷たい空気を切りながら駅へと向かった。
電車の中でも、参考書を開いて最終確認をする。
(……大丈夫だ)
ここまで、死ぬ気で勉強してきた。
右手を見つめる。
そこには、弥生が握ってくれた手のぬくもりが、まだ残っているような気がした。
(絶対にA判定を取る!)
電車が駅に到着した。
紫苑は勢いよく立ち上がった。
「よしっ!」
そして、予備校の試験会場へと向かった。
それから数週間後。
「で、どうだったの!?」
紫苑と二人きりになるなり、弥生は待ちきれずに尋ねた。
机には、予備校から受け取ってきた封筒が置かれている。
「まだ見てないんだ」
「ええっ!? 早く開けなさいよ!」
「分かったよ~」
紫苑は封筒を開き、成績表を取り出した。
二人は顔を寄せて、その結果を確かめた。
国立房総大学 三科目特別選抜
# A判定
総合偏差値
# 68.0
「…………」
「…………」
「や、やったああああっ!」
紫苑は拳を天井に突き上げた。
「すごいじゃない! 紫苑くん!」
弥生も思わず紫苑の手を取った。
「本当にやったわね! これなら本番もいけるわ!」
「うん!」
紫苑は嬉しそうに笑った。
そして、その顔が、にんまりと変わった。
「ふっふっふ。先生、約束は守ってもらうよ!」
「くっ……仕方ないわね……」
弥生は、いつものように着替えを始めた。
ここまでは、もう二か月近く続いている、お馴染みの光景だった。
「先生、どっちを外すの?」
「……もうっ!」
弥生はしばらく迷っていたが、やがて覚悟を決めた。
「……じゃあ、こっちよ!」
弥生が背中に手を回してホックを外すと肩ひもが落ちて、コトンとブラジャーが落ちる。
紫苑は思わず息をのんだ。
「……うわあ」
いつも腕で隠されていた先生の姿。
紫苑は、しばらく言葉も出なかった。
やがて、床に落ちたブラジャーに目をやった。
「……E65!?」
「ちょ、ちょっと! いちいち確認しないでよ!」
「で、でかいっ!!」
「こ、声に出さないの!」
弥生は真っ赤になって、慌てて身体を隠した。
そのときだった。
コンコン。
「紫苑く~ん、おやつですよ~」
「きゃあっ!」
弥生は飛び上がった。
「せ、先生! 早く布団に隠れて!」
「えっ!? あ、ああっ!」
弥生は慌ててベッドに飛び込み、布団を頭からかぶった。
「紫苑く~ん?」
「か、母さん! 今、集中してるから! ドアの前に置いといて!」
「あら、そうなの?」
「うん! すっごく集中してるんだ!」
「分かったわ~。弥生先生にもよろしくね~」
廊下を遠ざかる足音。
「…………」
「…………」
やがて、布団から弥生の顔がそろりと現れた。
「はあ……はあ……危なかったわね……」
「ほんとだねえ!」
「もうっ! 心臓が止まるかと思ったわ!」
弥生は大きくため息をついた。
「……それで、今日の宿題はちゃんとやったの?」
「もちろん!」
「じゃあ、見せてちょうだい!」
二人は何事もなかったかのように、勉強を再開した。
もっとも、弥生は左腕で身体を隠しているため、ノートを押さえることができない。
添削の赤ペンも、思うように進まなかった。
「先生~、なんか今日、字が汚いよ~」
「……うっ!」
「ちゃんと左手でノートを押さえてくれないと、読めないよ~」
「…………」
弥生は自分の左手を見つめた。
「くっ……し、仕方ないわね……」
覚悟を決めて、左手をノートに添える。
「うわあ! 先生、やっぱりでかい! それにピンとしてる!」
「ああっ! も、もう~~~~~~っ!」
いつもは静かな如月家の勉強部屋に、弥生の声が響くのであった。




