第3話 しまった! ワンピースだった!
「今日はここまでよ! よく頑張ったじゃない!」
「ありがとうございます!」
紫苑は、熱いまなざしで弥生を見つめた。
「じゃあ、次までに宿題を全部やっておいてね!」
「はいっ!」
パタン。
弥生が帰っていった。
ここからが、紫苑の戦いである。
宿題をさっさと片づけると、さらに難易度の高い問題集に取り組む。分からない問題は何度でも解き直し、疑問点をノートにまとめる。
その頭の中には、いつも弥生の姿があった。
ちょっとした美人という程度だが、紫苑にとっては理想の女性である。
細い腰に、丸みのある腰回り。そして、ゆったりした服の下に隠されている胸も、実はかなり大きいのではないかと思っている。
(絶対に確かめてやる……!)
不思議なことに、そんなことを考えていると、かえって頭が冴えわたった。
昨日は歯が立たなかった数学の難問が、今日は解ける。
「……あっ、そうか!」
紫苑は夢中になってペンを走らせた。
振り返ると、椅子の背には弥生からもらったカーディガンがかかっている。
(絶対にA判定を取ってやる!)
紫苑は再び問題集に向き直った。
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「ねえ、紫苑くん。最近、ものすごい集中力ね!」
「そうですか?」
「そうよ! あんなに宿題を出したのに、もう終わっちゃったの?」
「A判定のためなら頑張れます!」
「ふふっ。その意気よ!」
弥生はノートを確かめた。
「しかも、正答率も上がっているわ! この調子なら併願先もランクアップできそうね!」
「房総大は?」
「もちろん第一志望よ! でもね、三科目特別枠は本当に難しいんだから!」
弥生は受験案内書を開いた。
「私だって受験生のときはB判定がやっとだったのよ!」
「へえ~」
「だから、これからも気を抜かずに頑張るのよ!」
「は~い!」
受験案内書を熱心に眺める弥生。
紫苑が自分に注ぐ熱い視線には、まるで気づいていなかった。
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そして、次の模試の結果が返ってきた。
「先生! これ!」
「なあに?」
紫苑は得意げに成績表を差し出した。
「……えっ?」
弥生は目を丸くした。
「房総大、B判定ですって!?」
「うん!」
何と、房総大学三科目特別選抜で、B判定を勝ち取ったのである。
(し、信じられない! 私だってB判定がやっとだったのに……!)
第二志望以下は、すべてA判定。
「すごいじゃない! 紫苑くん! 本当によく頑張ったわね!」
「ふっふっふ。先生、約束は守ってもらうよ!」
「くっ……仕方ないわね……」
弥生は自分の服に目を落とした。
(し、しまった! ワンピースだった!)
今さら後悔しても遅い。
弥生は頬を赤らめながら、ワンピースを頭から脱いだ。
するり、と布が床に落ちる。
残されたのは、淡いベージュのブラと、レースのパンツだけだった。
「…………」
紫苑は息をのんだ。
いつも優しく、ときには厳しく勉強を教えてくれる弥生先生。
その先生が、今、自分の目の前に下着姿で立っている。
服の上から想像していたよりも、ずっと大人びた、美しい姿だった。
(……す、すげえ……!)
心臓がどくんと鳴った。
夢でも見ているようだった。
「……紫苑くん?」
「……はっ!」
「そ、そんなに見つめないでよ……」
弥生は両腕で身体を隠し、恥ずかしそうに椅子へ腰掛けた。
「じゃあ……今日の範囲は、ここからね」
いつもより少し声が上ずっている。
紫苑はまだ、先生から目を離せない。
「……先生、やっぱり胸、大きいんだね」
「も、問題を見なさい! 勉強に集中よ!」
弥生は慌てて問題集を指さした。
「ここ! この問題を解いてみて!」
「は~~い」
紫苑はペンを走らせた。
「できた!」
「えっ? もう?」
確かに正解だった。
「……すごいじゃない。じゃあ、次はこれよ!」
「はいっ!」
こちらも、あっという間に解き終えた。
「……正解ね」
弥生は驚いた。
以前なら、手も足も出なかった難問なのだ。
ところが、ふと顔を上げると、紫苑はまた自分をじっと見つめている。
「……紫苑くん。今、どこを見てるの?」
「胸」
「問題を見なさい!」
「は~~い」
紫苑は素直に問題集へ向き直った。
「それと、次はA判定よ! A判定を取らないと、これ以上は絶対にダメなんだから!」
「絶対A判定を取って、先生をすっぽんぽんにして見せます!」
紫苑は嬉しそうにペンを走らせた。
弥生は真っ赤になりながら、その解答を確かめる。
……またしても、正解だった。




