第2話 学力アップ?
「C判定かあ……」
紫苑は、模試の結果を見て肩を落とした。
「く~~っ! 先生の裸を見たかったのに~~~っ!」
「ちょ、ちょっと! 大きな声で何を言ってるのよ!」
「だって、C判定なんだよ!」
珍しく感情をむき出しにして悔しがる紫苑を見て、弥生は苦笑した。
「もう! D判定からC判定になったんだから、十分頑張ったじゃない!」
「でも、約束はB判定以上でしょ?」
「それはそうだけど……」
弥生は、改めて成績表に目を落とした。
4月から見てきた紫苑の学力は、確実に伸びている。
特に英語、数学、国語の伸びが著しい。この三科目だけなら、B判定に相当する成績だった。
一方、ほかの科目は相変わらず振るわない。
「ふーん……これは……」
弥生は腕を組んだ。
「英語、数学、国語はずいぶん伸びたわね。でも、ほかの科目も今から合格水準まで引き上げるとなると……」
「やっぱり、房総大は無理なのかなあ?」
「うーん……」
弥生はしばらく考え込んだ。
そして、何かを思いついたように顔を上げた。
「ねえ、紫苑くん。英語、数学、国語の三科目に絞ったら、何とかなるかしら?」
「えっ?」
「ちょっと待ってね!」
弥生は鞄から一冊の冊子を取り出した。
表紙には、こう書かれている。
『国立房総大学 三科目特別選抜』
「これよ!」
「何それ?」
「房総大学にはね、英語、数学、国語の三科目だけで受験できる特別枠があるの!」
「へえ! じゃあ、そっちのほうが簡単じゃん!」
「甘いわ!」
弥生は冊子を指で叩いた。
「文系学部全体で、たった50人の狭き門よ! しかも、優秀な受験生が集まるから、三科目とも相当な高得点を取らなきゃいけないの!」
「ご、50人だけ?」
「そう! でも、この枠で合格すれば、希望する文系学部・学科に進めるの。もちろん、法学部も選べるわ!」
「ふーん……」
弥生は、もう一度成績表を見つめた。
「今から全部の科目を伸ばすより、この三科目に集中したほうが可能性がありそうね……」
「じゃあ、これで行くの?」
「ええ! 作戦変更よ!」
弥生は力強くうなずいた。
「もちろん、相当な努力が必要よ。でも、あなたの伸び方なら、勝負できるかもしれないわ!」
「そっかあ……」
「それに、私立大学の併願も考えておけば、かなりいいところを狙えると思うわ!」
「え~~? 父さんが房総大って言っててさあ~」
「そこは心配しなくていいわよ!」
「えっ?」
「この間、お父様と進路についてお話ししたの。房総大学が第一志望だけど、いい私立大学に入れるなら問題ないっておっしゃっていたわ!」
「へえ~、そうなんだ」
「そうよ! だから、安心して勉強に集中しなさい!」
「は~い」
弥生は満足そうに微笑んだ。
D判定だった紫苑が、わずか数か月でC判定。
英数国に限れば、難関大学にも十分挑戦できるところまで来ている。
この調子なら、本当に何とかなるかもしれない。
「……そうだ!」
弥生は、自分のカーディガンに手をかけた。
「えっ?」
カーディガンを脱ぐと、紫苑の肩にふわりとかけた。
「はい! これは今回、頑張ったご褒美よ!」
「せ、先生!」
紫苑の目が輝いた。
「C判定だけど、特別よ! ずいぶん成績が上がったんだから!」
「ほ、本当にいいの!?」
「ええ! でも、約束のB判定はまだ取ってないんだからね!」
「うん!」
紫苑は嬉しそうにカーディガンを握りしめた。
「いい? 特別選抜の試験は1月よ! あと半年しかないわ!」
「半年かあ……」
「これからは、英数国を徹底的に鍛えるわよ! 宿題もどんどん増やすわよ!」
紫苑は勢いよく立ち上がった。
「ぜって~先生を裸にして泣かしてやる!」
「その意気よ!」




