第6話 約束の時間
それから二年近くが過ぎた。
弥生は房総大学を卒業し、企業の法務部で働いていた。
紫苑も房総大学法学部の学生として、充実した毎日を送っている。
二人は、時折連絡を取り合っていた。
そんなある日のこと。
「先生! ちょっと話したいことがあるんだけど、うちに来てくれない?」
「なあに? わざわざ呼び出すなんて」
「ふっふっふ。来てからのお楽しみ!」
「……変な子ねえ」
弥生は、久しぶりに如月家を訪れた。
「で、話って何なの?」
「まあまあ、座ってよ!」
紫苑は、机の引き出しから一通の封筒を取り出した。
「何、それ?」
「ふっふっふ」
紫苑は封筒から一枚の書面を取り出すと、うやうやしく弥生の前に置いた。
**司法書士試験 合格証書**
**如月紫苑**
「……え?」
弥生は書面を手に取った。
「……司法書士?」
「うん!」
弥生は思わず立ち上がった。
「あ、あなた! まだ大学二年生でしょ!?」
「うん! 房総大でも、学部生で合格した人はほとんどいないみたいだね!」
「し、信じられない……!」
弥生は、もう一度合格証書を見つめた。
「わ、私だって受からなかったのに……!」
「ふっふっふ」
紫苑は得意げに笑った。
「……先生、覚えてる?」
「……何を?」
「約束だよ!」
「…………」
弥生の顔が引きつった。
「し、司法書士試験に合格したら……」
紫苑は、にんまりと笑った。
「父さんも母さんも、大口の宅地開発の件で出張なんだ」
「……え?」
「明後日まで帰ってこないよ」
「付き合っている人、いないって言ってたよね?」
「そ、そうだけど……くっ……!」
「ふっふっふ。先生、約束は守ってもらうよ!」
「くっ……仕方ないわね……」
「じゃあ、いただきまーす!」
「きゃっ! も、もうっ!」
その夜、いつもは静かな如月家に、弥生の甘い声が幾度も響いた。
再び静けさが戻ったのは、空が白み始めたころであった。
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「……というわけなのよ」
弥生は、コーヒーを一口飲んだ。
「…………」
水無純は、しばらく言葉を失っていた。
「……あんた、すごい教え子を持ったのねえ……」
「そうなのよねえ。あの頼りない子がねえ……」
弥生は懐かしそうに微笑んだ。
そのときだった。
「お待たせ!」
一人の青年が、二人のテーブルに近づいてきた。
「こんにちは。いつも弥生がお世話になっています」
「あ、こんにちは……!」
純は思わず姿勢を正した。
特別な美男子というわけではない。
しかし、引き締まった身体に、しっかりとした肩と腕。
なかなか頼もしい雰囲気の青年だった。
(な、なにこれ? この細マッチョくんが、婚約者!?)
「じゃあ、帰ろうか!」
「ええ。それじゃ、またね!」
弥生が純に微笑んだ、その瞬間。
ひょいっ!
「きゃっ!?」
青年は、弥生を軽々と抱き上げた。
「ちょ、ちょっと! こんなところで何するのよ!」
「ふっふっふ。じゃあ、帰ろう! 今日の夜もすっぽんぽんにして、へへへ~」
「も、もうっ! 外でなんてことを言うの!」
青年は純に軽く会釈すると、弥生を抱えたまま颯爽と歩き出した。
「…………」
純は呆然と、二人の後ろ姿を見送った。
「……お、お幸せに……」
喫茶店の外では、いつもと変わりなく、温かな日差しが道路を照らしていたのであった。




