おまけの俺、決戦前夜を迎える
アジトに戻ってしばらくした頃──
ライルが部下からの報告を受け、そのままこちらへ駆け込んできた。
表情は険しい。
一目で、ただ事ではないとわかる。
「城から兵が動いた。
騎士団長と宮廷魔導師団長も一緒だ。
……名目は“反乱軍討伐”だとよ」
(……反乱軍、か)
つまり──陛下の軍は、正式に敵と認定されたということだ。
オフィーリアが静かに眉を寄せる。
「このタイミングで動かれると……
兵が戻ってくる可能性も考えなければなりませんわね」
「ええ……」
俺は地図に視線を落とし、思考を整理する。
「今日一日は様子見。
決行は明日の夕刻でどうでしょう」
指で進軍ルートをなぞる。
「一日進軍すれば、すぐに引き返すことはできない。
それに──一日では、ヴァルハイン軍には届かないはずです」
オフィーリアはすぐに頷いた。
「ええ。その通りですわ。
往復を考えれば、なおさら間に合いません」
「では──全員を集めて、最終確認に入ります」
立ち上がると同時に、ライルも動いた。
「俺も仲間を集めてくる」
それぞれ散っていく。
さっきまでの穏やかな空気は、もうどこにもない。
(……いよいよだな)
明日、すべてが動く。
やがて──
全員が食堂に集まり、長机を囲んで座った。
静まり返った空間に、緊張が満ちる。
俺は一人ひとりの顔を見渡し、口を開いた。
「王城から兵が出発した。
予定通り、明日の夕刻に作戦を開始する」
一拍置く。
「異議のある者はいるか?」
沈黙。
誰一人、口を開かない。
その覚悟を確認し、俺は小さく頷いた。
そのとき──
オフィーリアが静かに手を挙げた。
「作戦そのものに異論はございません。
ただ……シュウイチ様。
敵の出方について、どのように想定されていますか?」
「現在、城に残っているのは──
アリアさん、黒衣の神官、勇者、それに近衛」
言葉を区切りながら整理する。
「アリアさんは、すぐには動かないはずだ。
近衛も護衛に回るだろう」
視線を上げる。
「となると、出てくるのは──黒衣の神官か、勇者……神谷だ」
その名に、場の空気がわずかに引き締まる。
悠真が、静かに手を挙げた。
「……神谷が出てきた場合、
僕に任せてもらえますか?」
「単独は危険だぞ」
そう言いかけた瞬間──
美琴が迷いなく口を挟んだ。
「私が前に出る。
悠真くん、後ろから決めて」
一切の迷いがない声だった。
悠真は一瞬驚き──すぐに柔らかく笑った。
「……ありがとうございます」
「気にしないで。
こういうのは役割分担でしょ?」
そのやり取りを見ながら、俺は念を押す。
「無理はするな。
危なくなったらすぐ介入する」
視線を悠真に向ける。
「複数出てきた場合、勇者は任せる」
「はい」
短く、しかし力強い返事。
ひよりも、そっと頷く。
「私たちも支えるから。
一人で背負わなくていいよ」
「うん、任せて」
美琴も笑う。
その空気には──不安ではなく、確かな信頼があった。
(……強くなったな)
一人ひとりが、自分の役割を理解している。
それだけで、戦いは半分勝っているようなものだ。
俺はゆっくりと息を吐いた。
「──これでいく」
短く、そう告げる。
明日。
すべてが、動き出す。




