閑話4
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その頃──王城の奥深く。
静まり返った謁見の間に、低く響く声があった。
玉座の傍らに立つアリアの前で、
黒衣の神官ヴェルナスが跪き、報告を行っている。
「アリア様。
結界周辺に、不審な動きを見せる者が確認されました。
ルミナスに近しい気配……ですが、本体ではございません。
極めて微弱ではありますが」
アリアは腕を組み、わずかに息を吐いた。
「見張りを増やすべきかしら……?
いいえ、それよりも──面倒な報せが届いているわ」
ゆっくりと視線を下ろす。
「“お父様が辺境で兵を挙げた”そうよ」
その声音には、明確な嘲りが滲んでいた。
「今さら何ができるというのかしら。
……それより」
わずかに間を置き、ヴェルナスを見下ろす。
「塔に幽閉していた“お父様”は、どうなっているの?」
「確認いたしましたが──すでに部屋は空でした」
その瞬間、空気が凍りついた。
アリアの表情が、鋭く歪む。
「……なぜ、それを先に報告しないの」
低く、抑えた声。
怒りを押し殺しているのが、はっきりとわかる。
「辺境にいるのが“本物”と見るべきね。
ヴェルナス──“加護”は?」
「すでに断たれております。
勇者の“贄”と同様に。
……ルミナスの使徒が介入したと考えるのが自然かと」
アリアは目を細め、しばし沈黙する。
そして──
静かに、しかし迷いなく命じた。
「騎士団長と宮廷魔導師団長を向かわせなさい。
辺境軍は本日をもって“反乱軍”と認定するわ」
「承知いたしました。
直ちに討伐命令を下します」
ヴェルナスは深く一礼する。
だが、そのまま顔を上げ、淡々と続けた。
「……それと、もう一点。
結界周辺をうろつく者──
あれは“例の者”である可能性が高いかと」
アリアの瞳が、わずかに細められる。
「……あの男、ね」
「はい。
であれば──街側には“勇者”を向かわせてはいかがでしょう。
洗脳も、そろそろ完全に定着している頃かと」
わずかな間。
そして、即答だった。
「いいでしょう。そうしなさい」
「御意」
ヴェルナスは静かに立ち上がり、そのまま音もなく退室する。
再び、静寂が戻る。
アリアは一人、ゆっくりと窓辺へ歩み寄った。
王都を見下ろすその瞳には──
もはや、かつての面影はない。
(……来るなら来なさい)
(お父様も──ルミナスの使徒も)
(すべて、この手で終わらせてあげる)
冷たく歪んだ微笑みが、唇に浮かぶ。
その瞳に、優しさの名残は──
一片たりとも残っていなかった。




