おまけの俺、決戦前の静かな時間を過ごす
こうして──
“釣り出し作戦”は正式に動き出した。
作戦の骨子が固まったところで、俺は一つ確認しておきたかった。
「ただ、作戦開始は……王城内の兵が動いてから、ですよね?」
オフィーリアがゆったりと頷く。
「ええ、その通りですわ。
おそらく……五日もあれば、何らかの動きがあるでしょう。
陛下が立たれたという情報は、そろそろ王都にも届く頃ですもの」
つまり──敵が焦り始めるタイミングだ。
そのとき、悠真が控えめに手を挙げた。
「オフィーリア様。
それまでの間……魔術をご教授いただくことは可能でしょうか。
使えるようにはなったのですが、理論の部分がまだ曖昧で……」
「私も教えてほしいな」
すぐに美琴も乗ってくる。
ひよりは少し遠慮がちにリュミナへ視線を向けた。
「私は……リュミナちゃん。
ルミナス様の力の借り方、教えてもらってもいいかな?」
リュミナはぱっと顔を明るくした。
「えっと……うん、いいよ!
ひよりおねぇちゃんと一緒にやろー!」
その様子が微笑ましくて、つい頭を撫でてしまう。
「俺はライルたちと街の様子を見てくる。
リュミナ、ちゃんと先生やるんだぞ」
撫でられたリュミナは一瞬とろけた顔を見せ──すぐに我に返った。
「えへへ……はっ!
も、もう……すぐ子ども扱いするんだから……!
ちゃんとやるもん!」
その反応が可愛くて、思わず笑ってしまう。
俺はオフィーリアへ向き直った。
「オフィーリアさん、悠真たちをお願いします」
「ええ、お任せくださいませ。
教えるのは久しぶりですけれど……ふふ、少し楽しみですわ」
穏やかに微笑むその姿は、まさに“先生”だった。
悠真は緊張しながらも嬉しそうで、
美琴はやる気満々。
ひよりとリュミナはすでに修行モードに入っている。
(……よし。今のうちにできることは全部やる)
そう心に決めて、俺はライルたちと偵察に向かう準備を始めた。
街に出ると、昨日と変わらない光景が広がっていた。
人々が行き交い、
商人の声が響き、
子どもたちが走り回る。
結界と思われる地点を通過した瞬間、
身体の奥に、わずかな違和感が走る。
だが──それだけだ。
(……本当に、ここが“支配されている街”なのか?)
リュミナが襲われた場所にも足を運んでみる。
だがそこも、何事もなかったかのように日常が流れていた。
人々は笑い、
店は開き、
兵士もいつも通り巡回している。
(カイトリアに支配されてるようには……見えないな)
──だが。
城を見上げた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
高い城壁の向こう。
さらに奥にそびえる塔。
その影の奥から──
アリアと黒衣の神官、そして勇者・颯太が
こちらを見下ろしているような気がした。
もちろん、見える距離ではない。
だが、確かに“視線”のような圧を感じた。
(……待っていろ。必ず取り戻す)
気持ちを切り替え、街を歩き直す。
ふと、店先に並ぶ菓子が目に入った。
甘い香りの焼き菓子。
リュミナが好きそうなやつだ。
(……これ、絶対喜ぶな)
前は金がなくて買えなかったが、今日は違う。
迷わずいくつか買い、袋を大事にしまう。
(よし。これでまた、あいつが笑う)
そんなことを思いながら、
俺はアジトへと戻った。
アジトに戻ると、ちょうど講義が終わったところらしく、
皆でお茶を飲みながらくつろいでいた。
柔らかな笑い声が響いている。
「ただいま。
リュミナの好きそうなお菓子を見つけた。
せっかくだし、みんなで食べないか?」
袋を差し出すと、リュミナの目がぱっと輝いた。
「シュウイチ、ありがとう!
わぁ、これ好きなやつ!
みんなに分けてもいい?」
「もちろん。リュミナから配ってくれ」
「はーい!」
リュミナは嬉しそうにお菓子を配り始める。
その姿を見ているだけで、自然と頬が緩む。
「リュミナちゃん、ありがとう。……(ぱく)
うん、おいしい」
「でしょー!」
ひよりの言葉に、リュミナが満面の笑みを浮かべる。
女性陣はすっかり盛り上がっていた。
その輪の中心にリュミナがいるのが、どこか嬉しい。
そんな中、悠真に声をかける。
「悠真くん、どうだった?」
悠真は湯飲みを置き、少し興奮気味に話し始めた。
「修一さん、基礎から教えていただきました。
今までは魔術書通りにやっていただけだったんですが──
出力の調整や、属性の切り替えなど、応用の幅が広がりそうです」
「へぇ、それは大きいな」
「特に美琴さんが、“全力の防御”を使えるようになりました。
一撃を止めるくらいなら、いけると思います」
美琴が軽く肩をすくめる。
「ただし、一発で魔力切れだけどね」
「それでも十分だ。切り札になる」
悠真は少し考えてから言った。
「修一さんも、明日一緒にどうですか?
魔力量がかなり多いと思うので、出力を上げれば……
範囲で影に逃げるようなこともできるかもしれません」
「それはいいな。明日は一緒に教わるか」
「はい!」
嬉しそうに笑う悠真。
その表情は、まるで新しい世界に触れた少年のようだった。
(……いい顔するようになったな)
お茶の香りと笑い声に包まれながら、
俺は静かに息を吐いた。
(……守るものが増えたな)
その想いを胸に──
明日に備えて、ゆっくりと目を閉じた。




