おまけの俺、反撃の狼煙を上げる
翌朝。
俺と悠真はオフィーリアさんを案内し、
王都の結界が張られている地点へ向かった。
昨日の作戦会議の続きだ。
ここで得られる情報が、今後の方針を大きく左右する。
悠真が境界線を指さす。
「ここを越えると、結界の内側です」
オフィーリアさんは一歩踏み出しかけ──すぐに足を止めた。
「……まあ、ここが境目ですのね。
中で軽々しく魔術を使うのは、あまり賢明ではなさそうですわ。
いったん外に下がりましょう」
俺たちは結界の外側へと下がる。
オフィーリアさんは軽く息を整え、手をかざした。
「ここなら干渉はないわね。……『サーチ』」
淡い光が広がり、空気がわずかに震える。
「……なるほど……少し、見えてまいりましたわね」
悠真が身を乗り出す。
「その“サーチ”って、どういう魔術なんですか?」
「悠真くん」
俺は軽くため息をついた。
「今聞くことじゃないだろ」
悠真は気まずそうに肩をすくめる。
「すみません……新しい魔術だったので、つい」
オフィーリアは呆れたようにため息をついた。
「探究心をお持ちなのは、とても良いことですわ。
けれど──時と場所はお選びになってくださいませ。
戦場であれば、今の一言が命取りになることもございます」
「……はい」
「あとで教えてあげますわ」
「ありがとうございます」
軽くやり取りを交わしたあと、
オフィーリアは再び結界へと視線を向けた。
その表情が、わずかに引き締まる。
「さて、この結界についてですが──」
静かに言葉を紡ぐ。
「これは魔術ではなく、スキル……いわゆる“神の力”で構成されていますわ」
「……やっぱりか」
俺は小さく呟いた。
「ということは、解析は難しい?」
「いいえ」
オフィーリアは首を横に振る。
「構造そのものは読めます。ただし──」
わずかに声を落とした。
「この結界には、“外へ知らせるための仕組み”が組み込まれておりますわ」
「伝達……?」
「何かをトリガーにして、“外部へ知らせる仕組み”よ。
魔術の発動か、スキルの使用か、それとも別の条件かは不明だわ」
悠真が真剣な顔で続ける。
「つまり……中で何かを使った瞬間に、敵に伝わる可能性がある」
「その通り」
オフィーリアは頷いた。
「何が来るかはわからないが、“反応が返ってくる結界”ですわ」
俺はゆっくりと息を吐いた。
(……なら、やることは一つだな)
「つまり──釣れる」
オフィーリアがわずかに口元を緩める。
「ええ。
あなたの考えている作戦は、理にかなっているわ」
アジトへ戻ると、すぐに作戦会議を開いた。
全員が地図を囲み、空気が一気に張り詰める。
俺は結界の調査結果を共有した。
「結界は想定通り、“通報装置”として機能している可能性が高い。
よって──敵を釣り出す作戦を実行する」
ライルが身を乗り出す。
「ついに来たか。場所は?」
俺は地図の一点を指した。
「ここだ。王都外縁の広場。
王城から距離があり、森が近い。民家もない」
さらに指を滑らせる。
「そして──ここに城壁の穴がある」
全員の視線が集中する。
「結界内でスキルを発動→感知させる→この穴から外へ離脱。
敵はこの広場に誘導される」
ライルが頷いた。
「俺は穴の近くで人数確認だな」
「そうだ。
“10名以上かどうか”を合図で知らせろ。
多ければすぐ森に逃げろ」
「了解。庭みたいなもんだ」
頼もしい。
俺は美琴たちへ視線を向ける。
「美琴たちは広場と森の境で待機。
少数なら迎撃、多数なら森に引き込んで各個撃破」
「了解」
短く、力強い返事。
そして──
釣り役の話に移ろうとした、そのとき。
「釣り役は斥候である──」
「僕にやらせてください」
言葉を遮るように、悠真が手を挙げた。
一瞬、場が静まる。
「……悠真くん?」
「修一さんは切り札です。
眷属や神が出たときのために、隠しておくべきです」
まっすぐな視線だった。
オフィーリアが口を挟む。
「危険なのは理解しているのよね?」
「はい」
迷いはない。
「それに──試したいことがあります」
「……何をだ?」
「結界内で“四元素魔法”がどこまで使えるのか。
王城に入る前に、確かめておきたい」
理屈は通っている。
オフィーリアが俺を見る。
「ここは一度、ユウマ様にお任せになってみてはいかがでしょうか」
俺はしばらく考え──条件を出した。
「……入れ替え転移は常に使える状態にしておけ。
危なくなったら即離脱だ」
「はい」
強く頷く。
覚悟はできている顔だった。
「よし。
俺は迎撃側に回る」
配置を最終確認する。
「各自、持ち場につけ。
これは“実戦”だ」
全員が頷く。
「了解」
(……いよいよだな)
結界。
敵。
そして、初めての正面衝突。
静かに──戦いが始まろうとしていた。




