おまけの俺、想いの行方を見守る
「一つ、よろしいかしら?」
「答えられる範囲であれば」
オフィーリアはわずかに間を置いてから、静かに問う。
「ユウマさんは……イリア姫様のことを、どう思っているのかしら?」
……やっぱり、そこを聞くか。
「気になりますか?」
軽く肩をすくめてから答える。
「本人が自覚しているかは別として──好いていますよ」
オフィーリアの視線がわずかに揺れた。
「ただ、元の世界に帰れる可能性も示されていますからね。
どう向き合うべきか、迷っているんでしょう」
「帰れる手段があるのですか?」
「ええ。ルミナス様から、カイトリアをどうにかすれば帰れると」
オフィーリアは小さく息をついた。
「……そうですか。
では、姫様は……」
「失恋、と決まったわけじゃありませんよ」
言葉を遮るように続ける。
「俺も一度は戻るつもりですが、リュミナには“戻る”と約束しています。
行き来ができる可能性もある」
オフィーリアの目がわずかに見開かれた。
「……なるほど。
姫様にも、まだ道はあるということですか」
「そのあたりは、二人が決めることです」
オフィーリアはふっと柔らかく微笑んだ。
「それなら……少し、背中を押してあげたくなりますね」
……やれやれ。
戦いの前だというのに、恋の火種はよく燃える。
悠真がイリアの方へ向かっていったあと、
会話もひと段落し、アジトの中には自然といくつかの輪ができていた。
イリアの周りでは、美琴とひより、そしてリュミナが集まり、
まるで恋バナでもしているかのように盛り上がっている。
イリアは顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
(……青春だな)
見ているだけで、こっちまで少し照れる。
一方で、悠真はイリアに声をかけたあと、
そのまま美琴たちにも話しかけているようだった。
おそらく魔術講義の誘いだろう。
イリアは一瞬だけ固まったが、
すぐにぱっと表情を明るくして頷いている。
(……あれは、完全に意識してるな)
その様子を眺めていると、隣でオフィーリアが小さく笑った。
「……賑やかですわね」
「まあ、あの年頃なら普通ですよ。
むしろ、あれくらいでちょうどいい」
「あなたは落ち着いていますね。
まるで……皆を見守る保護者のよう」
「否定はしません。
実際、“大人枠”ですから」
オフィーリアはくすりと笑う。
「でも──あなたも誰かに支えられているのでしょう?」
視線が、リュミナへ向けられる。
「あの巫女様。
あなたを見る目が、とても優しい」
少しだけ間を置いて答えた。
「……そうですね。
支えられてますよ」
リュミナは今、美琴たちと一緒に笑っている。
その姿を見ているだけで、
胸の奥が静かに温かくなる。
「彼女がいなかったら、ここまで来られなかった」
オフィーリアはその視線を追い、静かに頷いた。
「……大切な人、なのですね」
「ええ。
大切な仲間で──守りたい相手です」
「ふふ。
イリア姫様も、そんなふうに誰かを想える日が来るといいのですが」
「来ますよ。
あの子は強いですから」
オフィーリアは満足そうに微笑み、席を立った。
「では、私は少し休ませていただきます。
明日は結界の調査がありますから」
「ええ。ゆっくり休んでください」
オフィーリアが部屋を出ていくと、
アジトの中はさらに穏やかな空気に包まれた。
美琴たちの笑い声。
イリアの照れた声。
悠真の困ったような返事。
そして──リュミナの柔らかな笑い。
(……守りたいものが、また増えたな)
そう思いながら、
俺は静かに息を整え、
明日の作戦に備えて目を閉じた。




