おまけの俺、王都奪還作戦が動き出す
俺たちは、それぞれの役割に分かれて動き始めた。
悠真は王都の外周を歩きながら、
結界の範囲を一つひとつ確認していく。
魔術が封じられる領域と、使用できる領域──
その境界を慎重に見極め、
いざという時に使える“退避ポイント”を設置していく。
その姿は、まさに賢者そのものだった。
一方、美琴とひよりはリュミナとともに、
ルミナス様から授かった加護の訓練を行っていた。
リュミナが先生役となり、
魔力の流し方や意識の向け方を教えている。
その光景はどこか微笑ましく、
張り詰めていた空気を少しだけ和らげてくれていた。
そして俺はシロガネとともに、
王都周辺の地形を確認していた。
戦闘になった場合を想定し、
少人数戦、多人数戦、それぞれに適した場所を洗い出す。
敵を誘い込む場所。
逆に、絶対に避けるべき場所。
実際に足を運び、視界や足場を確かめながら、
一つひとつ潰していく。
そんなふうに全員が動いていた、そのとき。
アジトの入口から、足音が聞こえた。
振り返ると──
ライルたちが戻ってきていた。
その隣には、イリア王女。
そして、見知らぬ女性が一人。
「ライル、お疲れ。無事に送り届けたみたいだな。
……で、イリア姫はどうしてここに? その人は?」
「ただいま。イリア姫は王様からの──」
ライルが言いかけた瞬間、
イリアが慌ててその口をふさいだ。
「だ、ダメですっ!」
「えっと……私は陛下から“作戦の提案”を預かってきました。
それと、この方は──」
一歩下がり、女性を紹介する。
「元宮廷魔術師、オフィーリア様です」
オフィーリアは優雅に一礼した。
「ご紹介にあずかりました。
元宮廷魔術師、オフィーリア=ヴァルハインと申します」
その声は落ち着いていて、芯がある。
「今回の作戦立案に関わっております。
魔術に関しても多少の心得がありますので、
お役に立てれば幸いです」
「佐伯修一です。こちらでは修一と名乗っています」
順に仲間を紹介する。
「ルミナス様の巫女リュミナ、聖騎士の美琴、聖女のひより、賢者の悠真。
あちらにいるのがシロガネです」
それぞれが軽く挨拶を交わす。
悠真が名乗ろうとした、そのとき。
オフィーリアの視線が、ぴたりと止まった。
「あなたが……ユウマ様ですか」
じっと観察するように見つめる。
「ふむ……なるほど。
イリア様、確かに感じのいい青年ですわね」
「っ……!」
イリアが一瞬で真っ赤になり、俯いた。
美琴とひよりはニヤニヤ。
リュミナは興味深そうに観察。
悠真は耳まで赤い。
シロガネは笑っている。
(……やれやれ)
だが──
戦力は確実に増えた。
そしてイリアの到着は、
この後の作戦に大きく関わる。
イリアが一歩前に出る。
胸に手を当て、ゆっくりと口を開いた。
「では、陛下からの提案についてお伝えします」
その声は少し震えていたが、
確かな意志が込められていた。
「陛下は近隣の兵を集め、
ヴァルハイン領から王都へ向けて進軍します」
場の空気が一変する。
「その際、“王旗”を掲げて正当性を示すとのことです」
「その間に──
可能であれば、アリア姉さまの洗脳を解き、解放してほしいと」
静寂が落ちる。
「これにより、王都に籠るカイト教の“正当性”を崩す狙いです」
美琴とひよりが小声で囁き合う。
「(ねえ、イリアさん完全に悠真くん好きだよね)」
「(うん、しかも両想いっぽい)」
俺は軽く二人の頭を叩いた。
「後でやれ。今は真面目に」
「はーい」
空気を整え、俺は問いかける。
「……洗脳、ですか」
オフィーリアが前に出る。
「それについては私から説明を」
その声は冷静で、迷いがない。
「確認されている洗脳対象は──
アリア姫、近衛騎士の大半、宰相、騎士団長、宮廷魔導師団長、そして一部のメイド」
場の空気が重く沈む。
「それ以外は、まだ正常である可能性が高いです」
「元凶は黒衣の神官ヴェルナス。
彼は“カイトリアの眷属”と考えられます」
「もう一人いたようですが──
それはシュウイチ様が討伐されたと」
イリアが続ける。
「陛下は、王旗を掲げることで
洗脳されていない兵を外に引き出し、説得する予定です」
オフィーリアが悠真に視線を向ける。
「勇者についてはどうされますか?
あなた方の仲間だと聞いていますが」
悠真は静かに首を振った。
「彼は……討伐対象です。
ただし、元の世界で復帰できるよう、ルミナス様と約束しています」
オフィーリアは静かに頷いた。
「承知しました」
そして、ゆっくりと周囲を見渡す。
「では──これらの情報を踏まえ、作戦会議を始めましょう」
その瞬間。
イリアはそっと悠真を見て、
悠真は気づかないふりをして、
美琴とひよりはまたニヤニヤしていた。
(……本当に、忙しいな)
戦争前だというのに、恋の気配は消えない。
だが──
確実に、前に進んでいる。
ここからが本番だ。




