王は選択する
Side:レネオス
アルベルトとオフィーリアの説明が終わり、
重い沈黙が部屋を包んだ。
その空気を切り裂くように、わしは口を開いた。
「……洗脳を解く方法はあるのか?」
オフィーリアは静かに首を振る。
「現時点では不明です。
眷属ヴェルナスを倒せば解けるのか、
カイトリアそのものを排除する必要があるのか……
あるいは──
解けず、“討つしかない”のか」
その言葉に、場の空気がさらに重くなる。
イリアが小さく拳を握った。
「もし……洗脳が“神の力”なら……
シュウイチさんなら、なんとかできるかも」
フィオナ妃が静かに頷く。
「聖女たちを解放した、あの力ですね」
イリアはまっすぐにわしを見た。
「うん。
お父様たちも、あの力で助けてもらった。
だから……アリア姉さまも、きっと……」
わしは目を閉じ、深く息を吐いた。
「……アリアは王として、やりすぎた」
静かに、しかしはっきりと言い切る。
「たとえ目が覚めたとしても──
“けじめ”は必要だ」
「お父様!」
イリアが立ち上がる。
ロザリア妃が、穏やかな声で言った。
「イリア。
王は“力”を持つ存在です。
その力の使い方を誤れば──
民を苦しめることになる」
イリアは震える声で問い返す。
「でも……アリア姉さまは……
ロザリア母様の娘でしょう?
見捨ててしまうの……?」
ロザリア妃は優しく微笑んだ。
「見捨てません」
その言葉には、揺るぎがなかった。
「アリアの罪は……私も共に償います。
母として、娘を見捨てることなどできません」
イリアの瞳に涙が浮かぶ。
わしは静かに言葉を重ねた。
「戦争を終わらせるとは──そういうことだ。
王族とは……
責任を負うからこそ“王族”なのだ」
イリアは唇を噛みしめ、
ロザリア妃の手を強く握った。
(……イリア。
その優しさは尊い。
だが同時に──
現実も、受け止めねばならん)
胸の奥に重い痛みを抱えながら、
わしは王としての覚悟を固めた。
オフィーリアが口を開く。
「ですが、もしアリア姫の洗脳が解ければ──
敵は統制を失います。
シュウイチ様には“アリア様の解放”を
優先していただくべきでしょう」
わしは頷いた。
「王なき王城では、組織は動けまい」
アルベルトが地図を指し示す。
「ただし──
洗脳が解けた瞬間、アリア様は標的になります」
「……当然だな」
「敵にとっては“再び王が立つ”ことになる。
最優先で排除に来るはずです」
わしは重く息を吐いた。
「ならば──
解放後すぐに説得し、城外へ離脱させる必要がある」
オフィーリアが手を挙げる。
「では、イリア姫と私でアジトへ向かい、
シュウイチ様と打ち合わせを行いましょう」
アルベルトが眉を上げた。
「オフィーリア、お前が行くのか?」
彼女は柔らかく微笑む。
「軍は動かせませんが──
魔術での支援なら可能ですわ」
わしはしばし黙り、やがて頭を下げた。
「……オフィーリア殿。
娘を頼む」
「お任せください。
イリア姫だけでなく──アリア姫も」
その言葉に、イリアが息を呑む。
(……アリア姉さまも……)
こうして──
王都潜入班
外部軍編成班(レネオス王・アルベルト・各領軍)
二つの戦線が、正式に動き出した。
作戦としては最善。
だが──
わしの胸には、別の感情が渦巻いていた。
(……イリアが、妙に落ち着きがない)
戦への緊張ではない。
明らかに──
(ユウマに会えるから、か)
わしは目を細めた。
(……この選択、本当に正しいのか)
王としては正解。
だが──父としては、どうにも落ち着かん。
その時、フィオナ妃がため息をついた。
「レネオス王。
今は国の危機です。
それなのに……
“未来の婿候補”に嫉妬ですか?みっともない。」
「み、みっともないだと……?」
「事実です」
容赦がない。
「今は王として振る舞ってください」
わしは反論する。
「フィオナはどうなんだ。
どこの馬の骨とも分からん男だぞ」
フィオナ妃は即答した。
「娘の幸せを願わない親がいますか?」
「ぐ……」
さらに追撃が飛ぶ。
「それに、この状況で“賢者”の力は貴重です。
娘もその気なら──利用するべきでしょう」
わしは周囲を見渡した。
イリアはそわそわ。
ロザリア妃は微笑み。
ティアナ妃は楽しそうに頷き。
オフィーリアまで「可愛らしいですね」と言っている。
(……味方がおらん)
わしは天を仰いだ。
(ユウマ……
もしイリアを泣かせたら──)
心の中で静かに呟く。
(その時は、本気で斬る)
王としての決断は揺るがない。
だが──
父としての心は、今日も忙しい。




