第2側妃は子を抱きしめる
Side:ティアナ妃
ティアナ妃は、
フィリアとレオンハルトの姿を目にした瞬間──
胸の奥に押し込めていた感情が、一気にあふれ出した。
「フィリア……レオンハルト……
よく、無事で……!」
震える声。
それは王妃としてではなく、
ただ一人の母としてのものだった。
ティアナ妃は二人を強く抱き寄せると、
そのまま乳母たちへと顔を向けた。
「クロイツ伯爵夫人、フォルティス子爵夫人……
我が子を守ってくださり、本当にありがとうございます」
すると二人は顔を見合わせ、
どこか照れくさそうに笑った。
「もう、他人行儀ね。
昔みたいに“ベラ”って呼んでくれないの?」
「私も“子爵夫人”なんてやめて、“アディ”でいいでしょ?」
ティアナ妃は涙を拭いながら、柔らかく微笑んだ。
「……うん。ベラ、アディ……ありがとう」
そう言って、もう一度フィリアを抱きしめる。
そのぬくもりを確かめるように。
やがて少し落ち着くと、ティアナ妃は静かに問いかけた。
「でも……どうやってここまで?」
ベラが穏やかに語り始める。
「王都にいた頃、
“戦が始まる”という噂が流れ始めたの。
その頃に──オフィーリア様から手紙が届いたわ」
アディが続ける。
「“王女様の教育によろしくない環境になるかもしれない。
よろしければこちらへ”って」
ティアナ妃の表情が曇る。
「……それで?」
「あなたに相談しようとしたのだけれど──
その直後に、王城で“毒騒ぎ”が起きて……」
「……あの時の混乱……」
ベラは静かに頷いた。
「このままでは危ないと判断して、
私たちで決めたの。
オフィーリア様のもとへ向かおうって」
アディが言葉を重ねる。
「ここに到着してすぐに、
“イリア様が捕らえられた”という話を聞いて……
本当に、間に合ってよかったと思ったわ」
ベラはやさしく微笑む。
「そして──こうして再会できた」
ティアナ妃の瞳から、再び涙がこぼれた。
彼女はフィリアの額に、自分の額をそっと重ねる。
「フィリア……いい子にしていた?」
フィリアはぱっと顔を輝かせた。
「うん、母様!
アディにいろいろ教えてもらったの。
刺繍もできるようになったんだよ」
ティアナ妃は目を細める。
「そう……じゃあ今度、母様にも作ってくれる?」
「うん!」
元気な返事。
その声を聞いた瞬間、
ティアナ妃の表情が、ようやくやわらいだ。
戦乱の渦の中にあっても。
失いかけたものが、ここにある。
守るべきものが、ここにある。
家族の絆は──
確かに、ここにあった。




