王は奪還の布陣を敷く
Side:レネオス
オフィーリアが資料を閉じ、
静かにこちらへ向き直った。
「では──現在の王都の状況について報告いたします」
アルベルトも腕を組み、真剣な表情で耳を傾ける。
「王都自体は、一見すると平穏です。
ただし──“そう見えているだけ”です」
わしは眉をひそめた。
「カイト教に染まっている者は?」
「第一王女アリア様。
そして近衛騎士団──こちらは“全員”と見て間違いありません」
妃たちが息を呑む。
「加えて、騎士団長、宮廷魔導士長、宰相。
この中枢は完全にカイト教側です」
イリアが震える声で続けた。
「メイドも……一部は染まっていると思います。
私の監禁場所にいたメイドは……
まるで意思がないようでした」
「イリアの世話をしていた者か」
「はい……まるで、人形のようでした」
オフィーリアが静かに頷く。
「そして元凶は──
黒衣の神官ヴェルナス」
アルベルトが低く言った。
「やつは“神官”というより、
カイトの眷属と見た方がいい」
「眷属……」
「もう一人いた神官は、数日前から消息不明だ」
その時、イリアが小さく手を挙げた。
「それは……シュウイチさんが
カイトの眷属“黒狼”を討伐したからだと思います」
アルベルトの目が鋭く光る。
「……すでに一体討伐済みか」
オフィーリアも驚きを隠せない。
「それは……戦況に大きく影響しますね」
わしは静かに頷いた。
(シュウイチ殿……
お主はどこまで道を切り開くのだ)
アルベルトは地図を広げる。
「王都内部は、
“アリア様と神官ヴェルナス”を中心に
完全に掌握されています」
オフィーリアが言葉を継いだ。
「ですが──裏を返せば、
“そこを崩せば一気に瓦解する”ということです」
わしは拳を握る。
(内側はシュウイチ殿たち。
ならば──わしらは外を固める)
王都奪還の全体像が、
ようやく輪郭を持ち始めていた。
アルベルトが続ける。
「兵力ですが──
ヴァルハイン領から出せるのは二百」
そして、にやりと笑った。
「だが質なら負けん」
オフィーリアも頷く。
「近隣領に増援を要請すれば、
二千ほどにはなります」
わしは腕を組んだ。
「王都側は五千……か」
アルベルトが地図を叩く。
「そこで“王旗”を掲げます」
「王旗……?」
「はい。
洗脳されていない兵を揺さぶる」
オフィーリアが補足する。
「近衛を除けば、
隊長クラスは洗脳されていない可能性が高い。
寝返らせる。
あるいは──動かなくさせるだけでもいい」
「……兵を削ぐ、か」
「それだけで王城の防衛は大きく崩れます」
わしは深く頷いた。
(内から崩し、外から圧をかける)
「問題は──連絡手段だ」
その時、イリアが手を挙げた。
「私……以前かくまってもらったアジトの場所を知っています。
そこに行けば、シュウイチさんたちと連絡が取れるかもしれません」
アルベルトが眉をひそめる。
「姫を単独で動かすのは危険だ」
その時──
扉近くにいたライルが口を開いた。
「そのアジト、俺たちの拠点だ」
全員の視線が集まる。
「姫さん一人なら、問題なく連れていける」
イリアの顔がぱっと明るくなる。
「ライルさん……お願いします!」
アルベルトが目を細めた。
「……王都で亜人保護をしていた連中か」
ライルは肩をすくめて笑う。
「俺たちは軍より小回りが利く。
こういう仕事の方が向いてるんでね」
そして、少しだけ真剣な顔になる。
「それに──リュミナちゃんのためだ」
わしは静かに頭を下げた。
「ライル殿……娘を頼む」
ライルは胸に拳を当てる。
「任せとけ。
姫さんも、リュミナちゃんも──必ず守る」
こうして──
王都を包囲する“外の戦線”と、
内部と繋がる“連絡線”。
二つの作戦が、同時に動き出した。




