王は反撃の道を見出す
Side:レネオス
わしは静かに問いかけた。
「勇者についてはひとまずよい。
補足は後にしよう。──カイト教について、何か分かっていることはあるか?」
オフィーリアが一歩前に出て、静かに頷く。
「カイト教は、信者の間では“勇者教”とも呼ばれております。
神カイトリアを信奉する集団です」
「神カイトリア……
異世界の勇者の成れの果て、と言ったな?」
「はい。“成れの果て”という表現が最も近いでしょう」
わしは眉をひそめた。
「その“成れの果て”とは、どういう意味だ?」
オフィーリアは一瞬だけ目を伏せ、
禁じられた歴史を語るように口を開いた。
「かつて──
邪竜から世界を救うために召喚された勇者カイトは、
討伐を放棄し、邪竜を従える悪神と手を結びました」
妃たちが息を呑む。
「そして……世界を手中に収めたのです」
「勇者が……悪神と手を……?」
「はい。ですが、その後──
悪神が隙を見せた瞬間、カイトはそれを取り込み、
“神”へと至りました」
部屋の空気が凍りつく。
「これは、ルミナス教の経典にも記されております」
フィオナ妃が震える声で呟いた。
「……そんな存在が……」
オフィーリアは続ける。
「その“神となったカイト”を討伐するために現れたのが──
ルミナス様です」
イリアが息を呑む。
「ルミナス様が……」
「はい。ルミナス様はカイトの力の大半を封じました。
ですが──本人には逃げられた、と」
「……逃げた先が、この世界か」
「その通りです」
オフィーリアは頷いた。
「ルミナス様は複数の世界を統治されているため、
力を分散せざるを得なかった。
その隙に、カイトはこの世界で力を回復し──
“カイトリア教”を築き上げたのです」
重苦しい沈黙が落ちる。
「さらに記録によれば、
カイトには“共に召喚された仲間”が存在していましたが……」
オフィーリアは目を伏せた。
「その力すら、奪い取ったとされています」
「……奪う、か」
わしは低く呟いた。
「はい。
このため勇者教の召喚は──
“勇者”と“餌”という構造になったと考えられます」
イリアの声が震える。
「……餌……?」
「勇者以外の三名──
聖女、聖騎士、賢者は“糧”として召喚される。
それが、この儀式の本質です」
わしは目を閉じた。
(ユウマたちが……そんなものに巻き込まれたのか)
怒りと焦りが、胸の奥で静かに燃え上がる。
やがて、わしはゆっくりと息を吸い、口を開いた。
「……では、次はわしの番だ」
アルベルトとオフィーリアが姿勢を正す。
「勇者以外の三人──
聖女ヒヨリ、聖騎士ミコト、賢者ユウマだが……
つい先日まで、わしらと行動を共にしておった」
二人の目が見開かれる。
「さらに──召喚されたのは四人ではない。
“五人”だ」
オフィーリアが息を呑む。
「……まさか」
「最後の一人は──ルミナスの加護を得ている」
部屋の空気が張り詰めた。
「その者の名はシュウイチ。
彼の力によって、わしらはカイトリアの呪縛から解放された」
アルベルトが思わず立ち上がる。
「陛下、それは……!」
「事実だ。
ヒヨリ、ミコト、ユウマもすでに解放されている」
オフィーリアの声が震えた。
「……“贄”が……解放済み……?」
「そうだ」
わしはさらに続ける。
「そして現在、ファルドラの辺境伯ガルド殿とも手を結んでいる。
軍を掌握できれば──戦を止める道も見えている」
アルベルトが息を呑む。
「龍王ガルド殿と……」
オフィーリアも目を見開く。
「最強と名高いあの方まで……味方に……」
「さらに──
シュウイチ、ヒヨリ、ミコト、ユウマ、
そして巫女リュミナは……すでに王都へ向かっている」
その言葉に、
二人はしばし言葉を失った。
やがて──
アルベルトが深く頭を下げた。
「……ここまで整っているとは……!」
オフィーリアも続ける。
「陛下……これはもう、奪還は可能です」
アルベルトが力強く言い放つ。
「われらは“王が戻る道”を切り開きましょう!」
オフィーリアも頷いた。
「各地の戦力を集め、“王軍”を編成いたします」
わしは静かに頷いた。
(……シュウイチ殿たちは、すでに戦っている)
ならば──
(わしも、王として動かねばならん)
王都奪還へ向けて。
大きな歯車が、確かに動き始めた。




