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王は娘の想いに揺れる

Side:レネオス


イリアは、少し頬を赤らめながら話を続けた。


「外の衛兵たちが雑談で話していたんです」

「アリア姉さまが勇者召喚をしたことや……」

「勇者と、その仲間が勇者・聖女・聖騎士・賢者であること」

「それから……勇者が城内で好き勝手していることも」


ロザリア妃が眉をひそめる。


「……アリアが、そのようなことを」


イリアは静かに首を振った。


「だから最初は……ユウマ様のことも警戒していました」

「勇者の仲間だと思っていたので」


だが――と続ける。


「話を聞いて……」

「“私が勇者に差し出される計画がある”こと」

「そして、ユウマ様が勇者と対立していることを知って……」


一度、息を整える。


「私は……ユウマ様に賭けることにしました」


ティアナ妃が小さく息を呑んだ。


「……それは、相当な覚悟でしたね」


イリアはこくりと頷く。


「ユウマ様は、“入れ替わりの魔術”で」

「ねずみと入れ替わって、部屋に来られたそうです」


フィオナ妃が興味深そうに目を細める。


「人と入れ替わる魔術……」

「ただ……」


イリアは少し言いづらそうに視線を落とす。


「“人との入れ替わりは初めて”とも仰っていました」


(初めて……だと?)


わしは思わず眉をひそめる。


イリアは続ける。


「それで……いきなり外に出るのは危険なので」

「部屋の中で、一度試すことになって……」

「ベッドを挟んだ距離で、魔術を使ってもらいました」


妃たちが息を呑む。


「結果として……入れ替わり自体は成功したのですが……」


ここで、イリアの声がさらに小さくなる。


「その……入れ替わるのは“自分だけ”だったのです……」

「え?」


三人の妃が同時に声を上げた。


イリアは顔を真っ赤にしながら続ける。


「ユウマ様は、魔力で身を覆っていたので……問題なかったのですが……」

「私は……魔術の心得がなくて……

服を残して入れ替わってしまって……

慌ててシーツをまといましたが……

たぶん……ユウマ様に見られちゃったと思うの……」


言葉を詰まらせながら、なんとか続ける。


馬車の中が一瞬、静まり返る。


(……なるほど)

(そういうことか)


わしの中で、静かに何かが燃え上がる。


(ユウマ……)

(次に会ったときは――)


その思考を遮るように、フィオナがさらりと言った。


「では、ユウマ様はイリアの婿候補に入れておきましょう」

「……何を言っている」


わしは低く唸る。


「……イリアの裸を見たやつだぞ。

目をつぶして、たたき殺さねば……」


その瞬間――

イリアが勢いよく立ち上がった。


「お父様っ!」


涙目で、しかし真っ直ぐにこちらを見る。


「ユウマ様に何かするなら……」

「私、ユウマ様についていきます!」


馬車の中の空気が凍りついた。


(……な、なんだと……?)


ロザリア妃がすぐにイリアを抱きしめる。


「いいのよ」


優しく撫でながら言う。


「あなたは王族ですが、王ではないのですから」

「いずれ嫁ぐなら……自分で選んだ方がいいわ」


ティアナも微笑む。


「ユウマ様であれば、安心して任せられますわね」


(任せられる……だと?)


混乱する頭の中で、なんとか言葉を絞り出す。


「しかし……ユウマ殿は元の世界に戻るのだろう?」

「その時、イリアを残していくのでは……」


フィオナが即座に返す。


「シュウイチ殿は残ると言っていましたわ」


そして、イリアに視線を向ける。


「イリア、あなたもユウマ様を引き留めればいいのです」

「それとも……別の方にしますか?」


イリアは、迷うことなく叫んだ。


「ユウマ様がいいです!」


(……ユウマ……)


わしの中で、結論が出る。


――選択肢は二つ。


娘に手を出した男として――排除するか。

娘の想いを受け止める男として――婿にするか。


(……どちらにせよ)


ゆっくりと拳を握る。


(覚悟は見せてもらうぞ)


レネオス王は静かに目を閉じ、

そして決意した。


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