おまけの俺、義父に認められる
俺は一度息を整え、口を開いた。
「最後に――ルミナス様からの条件があります」
視線が集まる。
「カイトリア神を……“呼び出してほしい”と」
一瞬、空気が止まった。
辺境伯が目を細める。
そして――深いため息。
「……あの神様、また無茶を言うな」
額を押さえる。
「地上で暴れられたら困るんだが」
俺も苦笑する。
「本人いわく――“しばきたい”そうです」
沈黙。
イリアがぽつりと呟く。
「……ルミナス様、かなり怒ってる……」
王妃たちが顔を見合わせる。
(……そりゃそうだよな)
辺境伯が低く言う。
「神同士の戦いは、地上から切り離す」
一拍。
「それが条件だ」
「了解です」
俺は頷く。
(……頼むから、街ごと吹き飛ばすとかやめてくれよ)
こうして――
作戦の大枠は決まった。
(……決まった、よな?)
不安しかない。
王と王妃たちは席を立ち、
エルドも静かに退出する。
残されたのは――
俺と、辺境伯だけだった。
空気が変わる。
「……シュウイチ」
辺境伯の声が低く響く。
だがそこには、
さっきまでの“軍の長”ではなく――
“父親”の気配があった。
「お前をリュミナの婿として――」
一瞬、言葉を区切る。
「……いや、まだ成人前だな。婚約者として認めよう」
(……は?)
「それまでは――俺の息子だ」
視線がまっすぐ突き刺さる。
「後継者として鍛える。覚悟しろ」
(急すぎるだろ)
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は慌てて手を上げる。
「元の世界の仕事もあるんだ。
戻れたら一度そっちを片付けたい」
少し考え――
「……終わってから三か月後。それでどうだ?」
一拍置いて。
「……お・や・じ」
辺境伯の目が丸くなる。
そして――
「がはははは!」
豪快な笑いが響いた。
「いいな、それだ!」
「だが“お父様”呼びは却下だ」
「じゃあ親父だ」
「しっくりくるな!」
砦に響く笑い声。
重かった空気が、一気に和らぐ。
(……親父、か)
胸の奥が、じんわり熱くなる。
リュミナのために。
この世界のために。
そして――
“親父”と呼べる存在のために。
俺は、強くならなきゃいけない。
辺境伯が酒瓶を机に置く。
少しだけ、真面目な顔に戻る。
「婚約の話は、リュミナにはまだ言うな」
「え?」
「あいつは絶対に浮かれてミスる」
即答だった。
(……想像できる)
「今の距離感が一番いい」
「……了解」
「それと」
辺境伯がこちらを見る。
「リュミナを気にかけてやれ。息子よ」
その一言が、
胸に深く刺さる。
「当たり前だ、親父」
満足そうに頷く。
だがすぐに真顔に戻る。
「あと一つ忠告だ」
「龍族は――嫉妬深い」
「……ああ、なんとなく分かる」
「複数の女に手を出したら戦争だ」
(種族レベルなのかよ)
「……気をつける」
辺境伯は頷き、
酒瓶を軽く叩いた。
「でだ」
にやりと笑う。
「こんなもんを用意した」
琥珀色の酒。
重厚な瓶。
ただならぬ雰囲気。
「息子ができたら、一緒に飲むのが夢だった」
静かに言う。
「今日はその日だ」
胸が熱くなる。
「……なら、付き合う」
「よし!」
杯に酒が注がれる。
「飲め!」
「おう!」
杯がぶつかる音。
そして――
豪快な笑い声。
――その後。
リュミナのところへ戻った時には、
俺は完全に出来上がっていた。
「シュウイチ!? どうしたの!?」
「りゅ、りゅみなぁ……」
ふらつきながら抱きつく。
「おれ……きょう……かぞく、ふえた……」
「え!? なにそれ!?」
遠くで声が聞こえる。
(……親父、強すぎる……)
そのまま、
俺はリュミナの膝へ倒れ込んだ。




