おまけの俺、王家を連れて脱出する
部屋へ戻ると、
王と王妃たちはすでに地味な外出用の服へと着替えていた。
王が小さく頷く。
「では、出るとしよう」
その視線がこちらへ向く。
「……お前の力を、見せてもらおう」
「はい。では――俺に触れてください」
四人が肩や腕に手を添えるのを確認し、
《遮断の外套》を発動。
さらに――
影移動。
窓から差し込む光が作る“廊下の影”へ、一瞬で跳ぶ。
空気が切り替わる。
「ここからは徒歩で外へ出ます。離れないように」
王族たちは緊張した面持ちで頷いた。
城内は静かだった。
だが――
その静けさが、不気味だ。
(やっぱりおかしいな、この城)
巡回の気配が薄い。
いや、“意図的に減らされている”ような違和感。
(……操られてるってことか)
俺たちは気配を消したまま、城門を抜けた。
外は、夜明け前。
空が白み始め、
街のざわめきが、遠くから聞こえてくる。
(……この時間なら)
“本音”が聞ける。
城門から少し離れたところで、
《遮断の外套》を解除。
旅人のふりをして歩き出す。
向かったのは市場。
リュミナと初めて会った、あの場所の近く。
「最近はどうだい?」
野菜を並べていた商人に声をかける。
男は疲れた顔で答えた。
「見ての通りさ……戦争で全部狂っちまった」
吐き捨てるような声。
「兵に持っていかれるし、物流も止まる。
値段は上がる一方だ……」
別の店でも同じだった。
不満。
疲労。
そして――諦め。
王が、小さく呟く。
「……戦争は、本当だったのだな」
その声には、
王としての責任と、
父としての苦悩が滲んでいた。
俺は王の前に立つ。
「では――止めに行きましょう」
「……どういうことだ?」
「ここから一日ほどの場所に、
ドラグニア辺境伯が来ています」
王の目がわずかに動く。
「辺境伯も今回の件がカイトリアの仕業だと理解しています。
一度、話し合いませんか?」
イリアが続ける。
「お父様。私がここにいるのも、
辺境伯様が助けてくださったからです」
まっすぐな瞳。
「……どうか、お会いください」
フィオナが王の腕にそっと触れる。
「あなた」
穏やかな声。
「私たちは呪いで眠らされていました。
……死んだも同然です」
そして、静かに続ける。
「そんな私たちを“殺さず”、
イリアを無事に返してくれたのです」
一拍。
「悪意のある者にできることではありません」
ティアナも口を開く。
「私のスキルでも、皆の言葉は“真実”と出ています」
そして静かに告げた。
「レネオス様。会うべきです」
王はしばらく考え――
深く息を吐いた。
「……分かった」
顔を上げる。
「ロザリア、ティアナもそう言うなら、会おう」
その目に、決意が宿る。
「案内してくれ」
「こちらです」
俺たちは市場を後にし、
アジトへと向かった。
(……ここからが本当の勝負だ)
王国とファルドラ。
そして――カイトリア。
すべてが動き出す。
アジトに戻ると、
勢いよく飛びついてくる影。
「シュウイチ、お帰り!」
「おう、ただいま」
自然に頭を撫でる。
「いい子にしてたか?」
「むぅ……子ども扱い……」
頬を膨らませるリュミナ。
だが――
視線が止まる。
王族に気づいた。
「初めまして。リュミナと申します」
綺麗なカーテンシー。
「……王様、でしょうか?」
(……ほんと、育ちいいよな)
「ライルを呼んでくれ」
そう言った瞬間――
「お呼びでしょうか」
奥からすぐに現れる。
(早いな)
ライルは王族を見るや否や、
膝をつき、深く頭を下げた。
「レネオス陛下、フィオナ陛下、ロザリア陛下、ティアナ陛下。
ようこそ」
一切の淀みがない。
「ただいま馬車を手配いたします」
そして俺にだけ小声で。
「接待、頼みます」
(……ほんと有能)
「こちらへどうぞ」
奥の部屋へ案内する。
そこでは――
美琴とひよりがちょうどお茶を用意していた。
「紹介します」
俺は順に告げる。
「美琴、ひより。
それとリュミナ」
三人が丁寧に頭を下げる。
「そして悠真――この三人は、
俺と一緒に召喚された仲間です」
その瞬間――
王が、深く頭を下げた。
「まず頭を上げてくれ」
「我が国の都合で、お前たちを召喚したのだろう」
一拍。
「……本当に、申し訳ない」
王妃たちも続く。
美琴が慌てて手を振る。
「いえ、帰る方法は用意されていますので……!」
ひよりも柔らかく続ける。
「どうか、お顔を上げてください」
お茶が差し出される。
その瞬間――
「毒見は私が」
イリアが前に出て、一気に飲み干す。
(早い)
「イリアさん、それただ喉乾いてただけでしょ」
ひよりが苦笑する。
「もう一杯いれてくるね」
「ありがとー!」
イリアが手を振る。
(……なんか)
空気が柔らぐ。
王族と、俺たち。
立場は違うのに、
同じ空間にいる。
笑いもある。
(……悪くないな)
王は王妃たちと静かに話し合い、
俺たちはいつものように雑談をする。
戦いの中で、
ほんの少しだけ戻ってきた、
“普通の時間”だった。




