おまけの俺、王家を解放する
俺は一歩前に出て、王と正対した。
「俺はこの国に召喚された勇者の“おまけ”――佐伯修一です。
シュウイチと呼んでください」
一拍置いて、続ける。
「ルミナス様の依頼で、カイトリアの“呪い”を断ちに来ました」
王の視線が、鋭くこちらを見据える。
その横で――
イリアが一歩前に出た。
「お父様……今、エルディア王国は
ファルドラ自治連邦国へ戦争を仕掛けています」
「――戦争だと?」
王の目が見開かれる。
イリアは震える声を押し殺しながら、言葉を続けた。
「始まったのは、お父様が倒れた翌日です。
今の王国は……カイトリア神に操られたアリアお姉さまが指揮しています」
拳を握りしめる。
「私は右の尖塔に軟禁されて……
勇者という男のもとへ嫁がされそうになっていました」
その瞳に涙が滲む。
「でも……ユウマさんとシュウイチさんが助けてくれたんです」
王は黙って聞いている。
イリアは、まっすぐに父を見た。
「信じられないかもしれません。
でも……一度、城の外を見てください」
静寂。
やがて――
王が、ぽつりと呟いた。
「……今、“カイトリア”と言ったな」
その声は、わずかに震えていた。
「そうか……フィオナの言っていたことは、本当だったのか」
王はイリアを抱いたまま、ゆっくりと起き上がる。
その動きに呼応するように、
周囲のベッドでも気配が動いた。
「……ここは……?」
正妃フィオナが目を覚まし、
続いてロザリア、ティアナもゆっくりと意識を取り戻す。
「今は何日?」
フィオナが静かに問う。
悠真が即座に答えた。
「4月30日です」
「……3月24日ではなくて?」
「はい」
フィオナはイリアを見る。
「本当なの?」
「はい……」
その答えに、
王が静かに頷いた。
「フィオナ……やはり、お前の言った通りだ」
「……カイトリアが、仕掛けていたのですね」
フィオナが悔しげに唇を噛む。
「だから……邪教に指定すべきだと申し上げたのに」
そして、周囲を見回す。
「カイトリア教がここまで広がっているということは……
ルミナス様の信仰は、弱まっているのでしょうか」
イリアが答えた。
「ルミナス様は現在、隣国に降臨されています。
今回の戦争も……カイトリアがルミナス様に仕掛けたものです」
フィオナの表情がさらに険しくなる。
「……証拠はあるの?」
「あります」
イリアははっきりと言った。
「街に出れば、戦争の痕跡はすぐに分かります。
それに……城の外には、ルミナス様の巫女も来ています」
一歩踏み出す。
「どうか、一度お会いください」
王は深く息を吐き、
イリアの頭を優しく撫でた。
「……そこまで言うのなら、行くしかあるまい」
そして周囲を見回す。
「問題は――どう出るかだな」
ちらりとこちらを見る。
「気づかれずに、だろう?」
イリアが俺を見た。
「外へ出る方法は……シュウイチ様が」
王の視線が俺に向く。
(……ここからが本番だな)
「問題ありません」
俺は短く答えた。
「全員まとめて、外へ出せます」
王はわずかに目を細めた。
「ほう……頼もしいな」
そして、すぐに現実的な話へ移る。
「では準備だ。
目立たぬ服はあるか?」
その言葉に、
悠真がすっと前に出た。
「少し待ってください。こちらで用意します」
イリアに目を向ける。
「服、お借りしていいですか?」
「ええ、構いません」
悠真は迷いなく手を動かし、
次々と服を取り出していく。
(……こいつ、ほんとこういうの慣れてるな)
「じゃあ、俺たちは外で待ってる」
悠真の肩を軽く叩き、
俺は廊下へ出た。
扉が閉まる。
その瞬間――
張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。
「……で?」
つい口が滑る。
「いつの間に、イリアさんの服預かる関係になったんだ?」
悠真が一瞬固まる。
そして――
まっすぐ俺を見る。
「信用を失うようなことはしません」
その声は、真剣そのものだった。
(……ああ)
理解する。
(こいつ、本気だな)
俺は小さく息を吐いた。
「……悪かった」
悠真は照れたように笑う。
「いえ……でも、ありがとうございます」
(……なんだそれ)
こっちが照れる。
静かな廊下。
ほんの一瞬だけ、
戦いのことを忘れるような時間。
だが――
それも長くは続かない。
扉が、そっと開いた。
「……準備、できました」
イリアの声。
俺たちは顔を見合わせ、
小さく頷いた。
(――行くぞ)




