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おまけの俺、戦場へ向かう

司令官バルグレイが一歩前に出る。

重い鎧が、わずかに鳴った。


「作戦を説明する」


それだけで、場の空気が引き締まる。

地図が広げられ、指が静かに動く。


「第二小隊は廃鉱内部の確保。

第一小隊は向こう側出口の制圧」


短く、的確。


「工兵隊は出口付近に砦を構築。

仮設指令所はそこに設置する」


(……前線のすぐ裏に本部を置くのか)


「辺境伯と私はそこに入る」


一切の迷いがない。


「到達後――お前たちはアジトへ戻れ」


その言葉に、視線がこちらへ向く。


「そこを拠点に王城へ潜入。

王と王妃の解放を最優先とする」


(……いよいよ、本番だ)


「解放後は指令所へ護送するか、

アジトでの会談に持ち込め」


作戦はシンプルだ。

だが――

失敗は許されない。


説明が終わると、

辺境伯がゆっくりと立ち上がった。


「――ここからは戦だ」


静かな声。

だが、全員に届く。


「だが忘れるな。

これは“奪う戦”ではない」


一拍。


「“取り戻す戦”だ」


その視線が、全員を貫く。


「敵味方問わず、無駄な犠牲は出すな。

……終わらせるぞ、この戦を」


誰一人声を出さない。

だが――

全員が頷いていた。


(……やるしかない)


隣で、リュミナがそっと袖を引く。


「シュウイチ……がんばろうね」


その笑顔に、

胸の奥が熱くなる。


(絶対に守る)


誰も失わせない。

そう、心の中で誓った。


「――出発!」


号令が響いた。

中庭に並ぶ遠征軍が、一斉に動き出す。

鎧の軋み。

地面を踏みしめる音。

獣人たちの低い唸りと、

馬のいななき。


(……すげぇな)


地面が震えるような迫力だった。

俺たちは隊列中央、

辺境伯と司令官の乗る馬車に乗り込む。

ふと気になり、声をかけた。


「バルグレイさん。

こんな大部隊で動いて、気づかれませんか?」


バルグレイは鼻で笑う。


「ああ、気づかれてるだろうな」

「……ですよね?」

「だが問題ない。

ガルドの小僧は、よく前線をうろつく」


ちらりと辺境伯を見る。


「“またか”で終わるさ」


(……雑だな)


「たまにはあいつの行動も役に立つ」


その言葉に――


「バルおじさん」


ガルドが眉をひそめる。


「もう辺境伯だ。

“小僧”はやめてくれ」


「千年も生きてない若造が何を言う」


即答。


「貫禄は千五百からだ」


(……千?)


思考が止まる。


(え、ちょっと待て)


俺は恐る恐る聞いた。


「竜人って……何歳まで生きるんですか?」


バルグレイが「ああ」と頷く。


「竜人は千歳前後。

だが――」


軽く胸を叩く。


「“龍人”である我らは、二千から三千だ」


(スケールが違う)


「成人は五十歳だ」


その言葉に、

俺は隣を見る。


「リュミナは……?」


リュミナは胸を張った。


「四十歳! あと十年で成人!」


そして、にっこり笑う。


「そうしたら、シュウイチと一緒になれるね」

「十年後……?」


(俺、三十八なんだが)


思わず顔が引きつる。


「大丈夫だよ」


リュミナは当然のように言った。


「ルミナス様にお願いして、

シュウイチの寿命は伸ばしてあるから♪」


(……え?)

(いつの間に?)

(というか、それ人間の範囲なのか?)


一気に不安が押し寄せる。


(日本帰ったらどうなるんだ俺)

(戸籍とかどうすんだ……)


頭を抱えたくなる。


(……あとで絶対確認しよう)


馬車はそのまま進み、

やがて廃鉱へと到着した。

冷たい風が吹き抜ける。


(……ここか)


前回、死にかけた場所。

だが今回は違う。


「今日はここで一泊だ」


指示が飛ぶ。

先行部隊はすでに内部へ進入済み。

俺たちは明日、

第二小隊の護衛付きで進むだけだ。


(……前回は命がけだったのにな)


思わず苦笑する。


(今回は“護衛付きで移動”かよ)

(待遇の差、ひどすぎるだろ)


だが――

それだけ、状況は変わった。

力も、仲間も、

すべてが揃っている。


(……明日だな)


俺は静かに拳を握った。


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