おまけの俺、巫女と共に帰還する
翌朝。
簡単な朝食を済ませ、俺たちはドラグニア領へ向けて出発した。
借りられた馬車は一台。
当然ながら――
「女性優先、だな」
乗り込んだのは、リュミナ、イリア様、美琴、ひより。
御者席にはコマチ。
華やかな顔ぶれだ。
馬車の中からは、時折楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
……対して。
「……なんか、扱いの差がひどくないですか?」
悠真がぼそりと呟いた。
「当然だろ」
「ですよね……」
男組――俺、悠真、ロウガたちは徒歩。
まあ、納得はしているが。
(……見た目の差はすごいな)
しばらく進むと、悠真がふらっと馬車に近づく。
何か話して、少しだけ乗せてもらい――
また走って戻ってくる。
(……分かりやすいな)
好きな子の前で、頑張りたい年頃というやつだ。
「……がんばれよ、悠真」
「な、何のことですか!?」
顔が真っ赤だ。
馬車の車輪が軽やかに回り、
その後ろを、俺たちの足音が追いかける。
そんな、どこか平和な朝だった。
しばらく進むと、城壁が見えてきた。
そして――
(……またあるな)
城外に展開された陣。
以前と同じ、ドラグニア辺境伯のものだ。
ハチヤが一歩前に出る。
「今回は先に話を通してきます!」
そのまま駆けていった。
前回のような強行突入はなく、
俺たちは問題なく陣へと迎え入れられる。
そこに立っていたのは――
リュミナの父、ドラグニア辺境伯。
リュミナは一歩前に出る。
「ただいま戻りました」
それだけ言うと、
何事もなかったかのように、そのまま歩き出した。
――が、
辺境伯の表情が、分かりやすく曇る。
(……ああ)
(これは“抱きついてほしかった父親”の顔だ)
そして次の瞬間。
ギロッ。
視線が、こちらに向く。
(いや、俺のせいじゃないだろ)
俺は小さくため息をつき、リュミナに耳打ちした。
「……ちょっと抱きついてやれ。
このままだと、あとで俺が怒られる」
リュミナはくすっと笑い、
くるりと振り返ると――
「お父様」
そのまま、ぎゅっと抱きついた。
辺境伯の表情が、一瞬で緩む。
(……分かりやすいな、この人)
だが、リュミナはそのまま俺にちらりと視線を送り、
にっこり笑った。
「その代わり――」
嫌な予感しかしない。
「城にいる間、毎日一回はぎゅっとしてね」
(……交渉成立か)
「……善処する」
「やった!」
満面の笑み。
(完全に流されてるな、俺)
城へ戻ると、すぐに会議室へ通された。
辺境伯はすでに席についており、
静かに俺たちを見渡す。
「さて、修一。同行者を紹介してもらおう」
「はい」
一歩前に出る。
「まず――こちらがイリア姫。
王国第二王女で、現在は事情があって行動を共にしています」
イリア様が一歩進み、優雅に礼を取る。
「イリア=エルディアと申します。
この度は身の安全をお借りする形となり、申し訳ありません」
辺境伯の目がわずかに細くなる。
「……姫を連れてきた、か」
重い声。
「修一。お前はまた、とんでもないものを背負ってきたな」
「成り行きです」
苦笑するしかない。
「こちらが白浜美琴と、ひより。
そして、悠真です」
三人もそれぞれ頭を下げる。
しばしの沈黙。
やがて辺境伯は、大きく息を吐いた。
「……なるほど。王国の混乱は、そこまでか」
そしてイリア様へ向き直る。
「姫は我が城で客として迎えよう。
ここならば安全だ。安心して滞在してほしい」
イリア様は胸に手を当て、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
その姿は、気品を保ちながらも――
どこか、覚悟を感じさせた。
(……これでひとまず安全は確保できた)
王国の混乱から離れ、
落ち着いて動ける場所に戻ってきた。
だが――
ここからが本番だ。
ルミナス様との面会。
そして、
王国奪還のための準備。
俺は静かに息を吐いた。
(……次の段階に進む)
仲間たちの笑顔を一度だけ見て、
気持ちを切り替える。
戦いは、まだ終わっていない。




