賢者は姫に寄り添われる
Side:悠真
……修一さん。
もしかして、僕とイリアさんをくっつけようとしてる?
あの人、そういうところあるよな……。
でも――
(身分差、えぐいんだけどな……)
元王女様と、ただの高校生。
普通に考えたら、あり得ない。
……あり得ないはずなんだけど。
(でも……)
イリアさんのことを知れば知るほど、
少しずつ、距離が近くなっていく気がする。
(僕……ちょろいな)
思わず苦笑する。
(これ、修一さんのこと笑えないやつだ)
そんなことを考えながらテントを出ると――
焚き火の明かりの中に、イリアさんの姿があった。
頬が、ほんのり赤い。
「こんばんは、イリア様」
思わずそう呼ぶと、
彼女は少し困ったように笑った。
「……その、“様”はやめていただけませんか?」
「え?」
「私はもう、王女ではありませんから」
静かに言う。
でも、その言葉に重さはなかった。
どこか吹っ切れたような、柔らかい響き。
「……じゃあ、イリアさんで」
「はい。ユウマさん」
にこり、と微笑む。
(……無理)
(可愛すぎる)
視線が合わせられない。
確実に、顔が熱い。
(絶対バレてる……)
沈黙が落ちる。
その沈黙を、イリアさんの声が破った。
「……ユウマさん」
「は、はい!」
「つまらない話しかできなくて、ごめんなさい」
「えっ!?」
慌てて首を振る。
「違います! 全然違います!」
言葉が一気に溢れる。
「その……イリアさんが可愛すぎて……
ちゃんと顔見て話すのが、ちょっと恥ずかしくて……」
(何言ってんだ僕は)
止まらない。
「イリアさんが悪いわけじゃないのに、不快にさせたらごめんなさい!
本当はもっと話したいんですけど……何話せばいいか分からなくて……」
言い切って、固まる。
(終わった)
(これは終わった)
だが――
「……そういうことでしたか」
イリアさんの声は、優しかった。
顔を上げると、
彼女は少しだけ考えるような仕草をして――
「それなら」
一歩、近づいてきた。
そして、
そっと、僕の腕に触れる。
「こうすればいいんですね」
そのまま――抱きついてきた。
「……っ!?」
思考が止まる。
距離が、近い。
温かい。
柔らかい。
(無理無理無理無理無理)
心臓が壊れそうだ。
でも――
「……あれ?」
イリアさんが小さく呟く。
「もっとドキドキすると思っていたんですが……」
腕に回された手に、ほんの少し力が入る。
「ドキドキよりも……安心しますね」
静かな声。
「リュミナさんの気持ち、少し分かる気がします」
(……ああ)
さっきまでの焦りが、
すっと引いていく。
代わりに残ったのは――
不思議なくらい穏やかな気持ちだった。
「……僕も、です」
気づけば、そう答えていた。
それからは、言葉はなかった。
焚き火の音だけが、静かに響く。
ぱち、ぱち、と。
夜の空気は冷たいはずなのに、
腕に感じる温もりが、それを忘れさせる。
(……なんだろう、この感じ)
ドキドキじゃない。
でも、確かに心地いい。
イリアさんは、腕を離さないまま、
隣で静かに座っている。
そのまま――
二人は、何も言わずに夜を過ごした。
ただ、
同じ温もりを分け合いながら。




