閑話3
Side:狼
大口は叩いた。
だが──
先の戦闘で、力の大半を削り取られていた。
(……くそ)
四肢に力が入らない。
霧を維持するのも、もはや限界に近い。
(あんな場所に……“邪神の巫女”と“眷属”がいるとは聞いていない)
誤算だった。
致命的な誤算。
このままでは、自力での転移は不可能だ。
(……戻らねば)
カイトリア様のもとへ。
あの御方の力圏に戻りさえすれば――
(……いや)
ふと、疑念がよぎる。
(まさか……)
筆頭眷属の座。
それを巡る争いは、常にある。
(情報を……渡さなかったのか?)
己を削らせるために。
地位を奪うために。
(……くだらん)
歯噛みする。
だが、今は考えている余裕はない。
ただ、生き延びる。
それだけだ。
力を温存しながら、森を進もうとした――その時。
ふわり、と。
目の前に、小さな影が現れた。
妖精。
だが――
ただの妖精ではない。
「よう」
軽い声。
だが、その一言で空気が変わる。
「だいぶ弱ってるな、カイトの眷属さんよ」
『……貴様は……』
声が、かすれる。
妖精はにやりと笑った。
「俺の名はダルガス」
ゆっくりと、名を告げる。
「ルミナス様の眷属だ」
(……っ)
本能が、警鐘を鳴らす。
“格”が違う。
弱っているとはいえ、目の前の存在は――危険だ。
だが、身体が動かない。
逃げる力すら残っていない。
ダルガスは肩をすくめる。
「ま、俺も万全じゃねぇけどな」
軽口。
だが、その目は冷たい。
「今のお前なら――ちょうどいい」
一歩、近づく。
「力、もらうぞ」
『やめ――』
止める暇もない。
ダルガスの手が、わしの頭に触れた。
その瞬間。
――吸われた。
力が。
存在そのものが。
根こそぎ、引き剥がされていく。
『や……やめろ……!』
声にならない。
『このままでは……わしは……!』
ダルガスは、ただ淡々と答えた。
「ルミナス様から奪った力だろ」
感情はない。
怒りも、憎しみもない。
ただ――
当然のことを告げるように。
「返してもらうだけだ」
(……ああ)
理解する。
これは“戦い”ではない。
“回収”だ。
わしはただ――
奪われたものの器に過ぎない。
力が、消える。
意識が、削られる。
(カイトリア様……)
視界が、闇に沈む。
(……お役に……立てず……)
最後の意識が途切れた瞬間――
黒狼の首は、
霧のように、跡形もなく消え去った。




