おまけの俺、一撃に全てを賭ける
「ファイヤーランス!」
悠真の魔術が、横から黒狼へ突き刺さる。
黒狼は鼻で笑った。
『我らが与えた加護で放つ魔法が、我に効くと思うか?』
避ける気配すらない。
そのまま、美琴へ突進を続ける――
だが。
直撃。
轟音とともに、炎が爆ぜた。
『グォオオオッ!!』
黒狼の巨体が、大きく弾き飛ばされる。
(……通った!?)
煙の中から、ゆっくりと姿を現す。
『……それは、加護で与えた魔法ではないな』
赤い目が、悠真を射抜いた。
悠真は一歩前に出る。
「最初から分かってたよ。
神から与えられた力じゃ、神には通じない」
静かに、だがはっきりと告げる。
「これは――人が組み上げた魔術だ。
神にも届くように」
黒狼の目が、細くなる。
『……傷が入ったことは認めよう』
低く、唸る。
『だが浅い。致命には遠い』
その視線が、殺意を帯びる。
『そして――我を傷つけた罪は重い』
次の瞬間。
黒狼の進路が変わる。
狙いは――悠真。
「カバームーブ:悠真!」
美琴が即座に割り込み、盾を構える。
衝撃。
だがその一瞬で、距離が生まれた。
「今だ!」
ロウガとシロガネが体勢を立て直し、前線へ復帰する。
その隙に、リュミナが駆け寄った。
「回復……いっぱい回復!」
柔らかな光が溢れ出す。
傷が、みるみる塞がっていく。
(……助かる!)
その横で――
その瞬間――仲間たちが一斉に動いた。
「ホーリーレイ!」
ひよりの放った純白の光が、一直線に黒狼を貫く。
「ウォーターアロー!」
続けざまにエルドの水弾が撃ち込まれ、炸裂する。
「はぁッ!」
ライルが間合いを詰め、鋭い一撃を叩き込む。
「いくぞッ!」
「任せろ!」
ハチヤとコマチが左右から同時に斬りかかり――
光と水と刃が、黒狼へと容赦なく叩きつけられた。
だが――
俺は動かない。
動かず、影の中に沈む。
(……いい)
黒狼の視線は、完全に前線へ向いている。
(俺に気づいていない)
息を整える。
一瞬の隙。
それだけでいい。
(来い……)
影の中で、ただ待つ。
仲間たちの攻撃が重なり、
ついに黒狼が後方へ跳び退いた。
そして――
『グオオオオオオオオオオッ!!』
咆哮。
空気が震える。
地面が軋む。
その瞬間。
「っ……!」
俺とリュミナを除く全員が、膝をついた。
(……威圧か!)
圧だけで、動きを止める。
完全な“格上”。
リュミナが一歩前に出る。
両手を広げた。
「みんな……がんばって!」
光が、ふわりと広がる。
温かい。
優しい。
だが確かな力。
(……巫女の加護)
美琴が息を吸い、立ち上がる。
「リュミナちゃん……助かった!」
ひよりも、悠真も、ロウガたちも、次々に立ち直る。
その様子を見た黒狼が――
リュミナを見た。
『……お前か』
低く、唸る。
『邪神の巫女』
空気が、冷える。
『カイトリア様の加護を断ったのは――』
目が、細くなる。
『お前だな』
殺意。
明確な“敵認識”。
『ならば――まずはお前からだ』
地を蹴る。
黒い閃光。
一直線に、リュミナへ。
「カバームーブ:リュミナ!」
美琴が飛び込む。
「ホーリーシールド!」
「アースウォール!」
ひよりと悠馬の魔術が発動する。
だが――
黒狼は、止まらない。
アースウォールを粉砕しながら、突き進む。
(……速い!)
美琴の目前。
その瞬間――
「お願い! みんなを守って!」
リュミナの声が響く。
その声に応えるように、
全員の身体が淡く光る。
(……強化!?)
一瞬の“粘り”が生まれる。
黒狼の動きが、ほんの僅かだけ鈍る。
――その一瞬。
(……ここだ)
影が揺れる。
俺は、リュミナの背後――
その影から現れた。
黒狼の視界外。
完全な死角。
「この距離なら……」
美琴が抑えている。
黒狼の意識は、前。
(……いける)
《神威の滅剣》
黒い刃が、光を喰らう。
空気が凍りつく。
時間が、伸びる。
「――もらった」
全力で。
黒狼の首元へ――
刃を振り抜いた。




