おまけの俺、暗闇が牙を剥く
廃鉱の入口まで来ると、
前回と同じように王国兵が警備していた。
(……相変わらず緩いな)
「前回と同じ手でいく。
人数が多いから、二回に分けて運ぶぞ」
影移動を発動。
まず半数を入口の内側へ移し、
すぐに戻って残りを運ぶ。
ほどなくして、全員が廃鉱内で合流した。
「このまま奥へ進む」
暗闇の中を、慎重に歩みを進める。
その時――
ルミナス様の言葉が、頭をよぎった。
──“ここからは暗闇になる。気をつけろ”
(……この廃鉱のことじゃないのか?
それとも、もっと別の“暗闇”…)
嫌な予感が、胸の奥に引っかかる。
「ここからは警戒して進むぞ」
そう声をかけた瞬間。
「……僕、探査できます」
悠真が手を挙げた。
「風で周囲の気配を探れます。
断続的に使います」
「頼む」
悠真が静かに詠唱し、風を流す。
空気が、わずかに揺れる。
しばらく進んだ、その時――
悠真の顔色が変わった。
「……来ます」
低い声。
「後ろから。速い……かなり速いです」
その瞬間。
ロウガとシロガネが同時に後方へ回り込む。
美琴も前に出て、盾を構えた。
空気が、一気に張り詰める。
(……来たか)
足音。
軽い。
だが――異様に速い。
そして、近づくにつれてはっきりする。
“重い”
圧のようなものが、空気ごと押し寄せてくる。
リュミナが俺の袖を掴んだ。
「シュウイチ……来る」
「ああ」
俺は《虚無視界》を発動する。
闇の向こう。
そこに――
“何か”がいる。
黒い影。
形は、狼。
だが、違う。
(……これは、ただの魔物じゃない)
「――来るぞ!」
次の瞬間。
黒い影が、弾けるように飛び出した。
疾風。
いや、それ以上。
目で追うのがやっとの速度。
「巨大な狼……!?」
その瞬間、《虚無視界》が反応する。
“カイトリアの使徒”
「眷属だ! 気をつけろ!」
叫んだ直後――
黒狼が、ロウガとシロガネにぶつかった。
「ぐっ……!」「くっ!」
二人の身体が、まとめて吹き飛ばされる。
(速い――重い!)
黒狼はそのまま、美琴へ一直線に突っ込む。
「ホーリーシールド!」
「不屈の城塞!」
ひよりと美琴の詠唱が重なる。
ガンッ!!
金属が悲鳴を上げるような音。
衝撃で、美琴の体が一メートルほど押し込まれる。
だが――
「止めた……!」
踏みとどまった。
黒狼が、わずかに距離を取る。
低く唸る。
『ほう……』
声が響いた。
獣の口から、人の言葉。
だがその響きは――
人ではない。
『人の身で我を止めるか。
……と思えば、聖騎士か』
赤い目が、美琴を射抜く。
続けて、ひより、悠真へと視線が移る。
『聖女、賢者……
なるほど。揃っておるな』
わずかな沈黙。
『死んで加護が切れたかと思ったが……』
目が細められる。
『……どうやって断った?』
美琴は答えない。
ただ、盾を構え直す。
『まあよい』
黒狼が、わずかに口元を歪めた。
『我らに敵対する者は、排除するのみ』
空気が震える。
『勇者の糧は、お前たちだけではない。
……ここで我の糧となれ』
黒狼が、再び突っ込む。
その瞬間。
「ファイヤーランス!」
悠真が横から魔術を叩き込む。
炎の槍が一直線に飛ぶ。
だが――
黒狼は、避けない。
『我らが与えた加護で放つ魔術が、我に通じると思うか?』
炎が直撃する。




